会長メッセージ

日本取締役協会 会長 宮内義彦

日本取締役協会
会長 宮内義彦

取り巻く環境

昨年度、日本経済は概ね好況と云われる中で推移しました。企業活動においても同様で、例えば上場企業の純利益は約30%の伸びを示しました。企業業績の伸長は好況と云うことのみでなく、市場が業績の伸びを強く要求しはじめたことも、その一因と考えられるのでしょう。しかし日本企業のこの利益を規模で見ると、純利益額で世界トップ20に入っているのは1社のみという状況で、過去の実績に比べてまだまだ満足のいく水準に至っていません。日本企業の成長力が世界水準に、まだ届いていないという現実もあります。

こうした事実は当協会に対し、引き続き大きな課題を突きつけていると理解できます。当協会の目的は、日本におけるコーポレートガバナンスの定着に資することでありますが、その向こうにある最終的な目標は、日本企業が高い水準で成長する力を持ち、イノベーションにチャレンジする経営姿勢を保ちながら日々運営され、それが世界の水準に劣らないところにまで到達することであります。その目標を達成するための一つの手段として、コーポレートガバナンスというシステムの充実を推進するのが、私共協会の立場であります。

この様な認識のもと企業の最近の動きを見ますと、コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードの浸透により社外取締役に関しては1部上場企業の95%近くが2名以上導入するなど数年前に比べて進捗著しいものがあります。また経営指標の一つであるROEにおいても全体的に8%〜10%前後にまで上昇してまいりました。これらの変化は我が国の企業経営にとっては勿論、経済にとっても喜ばしい出来事であります。ただしこの時点で私共の活動を止めることはできません。私共のかねての主張である取締役会の半数以上を独立取締役が占め、ROEも二けたという水準からすれば、まだ道半ば、あるいは道遠しであることも自覚する必要があろうかと思います。幸いコーポレートガバナンス・コードも見直され、今後は経営の承継問題や投資家とのエンゲージメントなど重要課題の改善案の提示が期待されること、株主総会でも機関投資家の積極的な関与が予想されることなど、今後もさらなる変化が予測されます。このような状況下、当協会は更なる我が国のコーポレートガバナンスの充実のため、引き続き皆様方会員のご協力をいただきながら、力強く進めていくことができればと、心から念じている次第であります。

協会活動

2017年は上場企業において会社法、各種コードの整備、その遵守等についての認識は広く普及して参りました。

協会は活動実績をより詳しく知って頂けるよう、広報活動にも注力して参りました。関係省庁やメディアとの意見交換や海外他団体のイベントへの参加。会員の皆様の知識、情報の向上、独立取締役に求められる役割についての考察、執行部に向けてはコーポレートガバナンスを導入する必要性の提唱等であります。海外の投資家とも対話を通じ、協会活動をより理解を深める努力を続けました。一例ですが、コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤーという表彰制度により、日本にもガバナンスと業績の両方ともに優れた企業が生まれていることをアピールしてきました。

各企業による独立取締役導入に代表される形式上の進展、あるいはROEなどの収益基準の向上といった、前向きな流れとともに、特に当協会参加企業の株価パフォーマンスがTOPIXより一段と優れているデータを発表できたことも喜ばしいことであります。

問題の所在

コーポレートガバナンスは「企業が持つ目的、目標を最も効率的に達成するための仕組み」ではありますが、昨今の動きはむしろ長期の停滞、低成長から脱却を促すシステムとして利用し、外形上の成果が現れたものです。私共にはここで満足するのではなく、更に企業活動を世界水準に持ち上げるためのシステムとして、高度化させる次のステップが待ち受けております。

現在進められている動きについても、若干懸念事項がない訳ではありません。昨今いくつかの企業での不祥事も影響し、ガバナンスが不祥事を無くす監査・監視の仕組みとして強化されようとしていることです。

また現在の制度設計では、特に監査役会設置会社は取締役に執行、監督の役割分離がなされず、取締役会を執行案件中心に運営せざるを得ない。社外取締役にも決議に対し、責任を有することから、成長を執行部に強く促しにくいのも事実です。監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社においても、執行部、独立取締役の両方が、不祥事防止に軸足を置くことに少し偏っていることであります。

これからはガバナンスの本来の目的に直接利する、経営者の選任方法、意欲に満ちた経営者が選ばれる仕組みをどのように作り上げるかが、重要になってくるはずです。要するに、社外取締役が実際どのようにして、強い経営者を選任することができるか、結果責任を伴う、実質的成果が問われる段階へと移行することが求められます。

コーポレートガバナンスも形から内容へ、例を挙げるならば、法制度、経営者マインド等のあり方へと、我々の視点を向けていくべきではないでしょうか。現状の改革で満足しているなら、引き続き海外企業に後れを取り、日本経済の停滞に繋がることが懸念されます。

運動テーマ

私共は、投資家など市場関係者の協力を得ながら、制度だけでなく、経営陣の意識を改革するガイドとしての役割を担っていくことが、重要な活動の一つになります。 常に持続的に企業を成長させる為には、前向きのエネルギーとイノベーションを必要とし、多くの経営者はそれらのプレッシャーに耐えながら、企業の業績を高め、現状打破を計らねばなりません。

形だけでなく、企業を成長させるために、経営者はイノベーションを興し全力で走り、取締役はそれを応援し監視するという仕組みが創りあげられ、それが企業経営の常識となって初めて、コーポレートガバナンスが定着したと言えるのだと思います。 これまでの日本の企業経営には、幾多の誇り得る部分を持っているのも事実であり、それらと経営改革を促進させる、目指すべきコーポレートガバナンスを結合させることで、持続的に日本経済が発展することが、現実となるのではないでしょうか。

日本取締役協会はそのような活動を今後とも素早く、楽しく、フレッシュに展開し、企業社会に貢献していきたいと思います。

(2018年5月14日 第16回会員総会 会長所信より)