いよいよ来年の7月、新しいお札が発行される。一万円札に渋沢栄一、五千円札に津田梅子、千円札に北里柴三郎の肖像が描かれる。お札にはその人をもう一度蘇らせる力を持っている。さらに、その人が生きた時代までもが蘇ってくる。来年7月が近づくにつれ、3人の偉業と明治という時代に改めて思いをはせることになるだろう。
ところで、百円札と五百円札を覚えているだろうか。百円札のくすんだ赤色の中で板垣退助の立派な白髭は印象的だったし、五百円札の深い藍色の奥で岩倉具視の遠くを見る目は不気味だった。その後、歴史の教科書で二人の人物像を知ることになるが、お札のイメージが強烈過ぎた。お札の肖像といえば聖徳太子で、「10人の話を一度に聞けた」という逸話も、あの凛々しいお姿も学校で習う前にお札を通して学んでいた。
そういえば、2000年に二千円札が発行されたが、ほとんど流通しなかった。アメリカでは20ドル紙幣が頻繁に使われているが、どうも日本は2というのが苦手なようだ。先日、日豪経済委員会がメルボルンで開催されたので聞いてみたが、オーストラリアでも20ドル紙幣は結構使用されているとのこと。オーストラリアは英連邦の一員で5ドル紙幣にエリザベス女王の肖像が描かれているが、これを先住民文化を反映したものに変えるそうだ。英連邦からの離脱問題や先住民重視政策が微妙に関係しているのだろう。なお、二千円札には紫式部日記絵巻の一場面が描かれ、いわゆる肖像画はないそうで少しホッとする。
改めてお札を見てみると、表面には日銀総裁の印章、裏面には日銀発券局長の印章が押されている。言うまでもないが、お札は正式には日本銀行券である。キャッシュレス時代と言われて久しいが、お札は時代を象徴するものであり、一人一人の人生そのものだ。日本の近代化を導いた3人には、これからも長く頑張ってほしいと思う。
東京ガス株式会社 相談役
広瀬道明