会長メッセージ

Message

コロナ禍における変化

昨年からの世界的コロナウイルスの蔓延は未だに収束の兆しが見えません。そのような状況下においても、世界の経済は成長、拡大への動きを止めることがありません。

他方、企業の経済活動には大きな変化も表れております。ひとつの例が、社会や環境への配慮を重視した、世界的なうねりとなりつつあるSDGs、あるいは企業、投資の世界におけるESGへの関心の高まりです。

我が国は現下、コロナ対策が最重要課題とされていますが、同時にCO2削減などの環境問題が喫緊の課題として意識されてきました。そのなか従来から課題とされていた、企業成長への施策として、コーポレートガバナンスの推進が更に図られようとしています。具体的にはコーポレートガバナンス・コードの改訂や東京証券取引所のプライム市場の創設などが挙げられます。コード改訂は多くのポイントがありますが、中心はプライム市場における独立社外取締役の増加であり、取締役会の3分の1や過半数にしていこうという動きです。

独立社外取締役の数が増加する面は確かにひとつの進歩と捉えられます。コーポレートガバナンスの目的を達成するためには形を整えることも重要でありますが、その本質について合意形成が十分なされなければ、むしろ形式だけで良しとする動きに止まり、実効性が伴わない結果も懸念されます。ガバナンスの本質は、企業が中長期的に価値創造を続け、社会に貢献することにあります。それには経営執行部とは別の第三者が市場の目を持って、持続的に企業が成長するよう、執行を監督することにあることは言を俟ちません。

コロナにより、世の中の行動と意識が大きく変化する中、企業の執行部、取締役会も大きな変革が求められる時代になってきたのは、間違いありません。

コーポレートガバナンス推進の問題点

本年度、日本取締役協会は設立20年を迎えます。取り巻く環境も、2002年の会社法改正による委員会等設置会社とその機関設計から始まり、スチュワードシップコード、コーポレートガバナンス・コードの導入など大きく変わりました。

その中で、当協会がガバナンス強化に一定の役割を果たせたのは、ひとえに会員の皆様の不断の努力とご協力によるものと感謝しています。その役割の一環として私共は最近の流れについて注意喚起、あるいは新たな提案を示す責任があると思います。

例えば最近のコーポレートガバナンス・コード改訂の動きには若干気になる点も指摘せねばなりません。コーポレートガバナンスの主役である、独立社外取締役の役割、責務として、経営に対する「助言、アドバイス」それに伴う「取締役のスキルマトリックスの開示」など執行に関わると思われるところが、本来の役割である「監督」より、重要視されているように見える点です。それが独立社外取締役の人材不足の理由にされたり、伝統的企業の不祥事などに起因する独立社外取締役への不信感醸成の理由にされているのは大変残念なことで、思えばその役割についての議論にはあまり進歩が見られません。

コーポレートガバナンスの本来の目的、何の為に独立社外取締役を導入するかの理解、考え方が曖昧で、独立社外取締役を入れるという形だけを整え、独立社外取締役が機能するような執行と監督の分離、執行側のモニタリング機能に対する不十分な理解、独立社外取締役側のなすべきこと、あるいはなさざるべき事の認識が全体として十分とは言えないことに原因があると思います。

経営、執行側の業績を短期、中長期に市場の動きを考慮しつつ、目標と照らし合わせて評価し、細かい欠点を指摘するのではなく、経営者に企業の更なる成長を促し、その後押しをすることが役割であり、その評価に基づき報酬委員会が報酬を決め、将来の経営人材を考え、成長が望めない場合は、経営をほかの人に代わってもらうなど指名委員会が機能しなければなりません。

その様な執行側と、独立社外取締役両方のやるべきことへの合意がなければコーポレートガバナンスは機能しません。

最近、経営者はコロナもあり、社員の意識変革を標榜している会社が多くありますが、変わらなければならないのは、むしろ経営者の方なのかもしれません。

協会の活動

各種コード、東京証券取引所等において様々な前進がある中、各企業ではコーポレートガバナンスの実質的な役割分担が不十分なまま、独立社外取締役に「助言」を期待する、独立取締役が執行責任を負うようなところまで介入しようとする、機能分割できない取締役会が作られるとしたら、ガバナンスの本質から逸脱するものと言わざるを得ません。

そのような環境下、日本取締役協会は、コーポレートガバナンスの目的を企業成長への仕組みと捉え、独立社外取締役の役割は執行部への監督であり、監督を有効にするためには、取締役会の運営にも監督と執行の分離に意を用いることを主張してまいりました。今後取り組むべきテーマとしては、現在の会社法が三つの形態を認めることが果たしてガバナンス確立の弊害となっているのではないかといった根本的な疑問、矛盾をどう見直していくべきかといった課題もあります。更に付け加えますと、ガバナンス確立の基本の一つである、独立取締役が行う監査機能と従来の監査役の役割とは全く異なるものであるにもかかわらず、両者を混同したり同一視して考え、組織として捉えることが半ば容認されていることに大いに懸念を持っております。従来の監査役は執行部門であり、ガバナンス上の機能を欠くことが明白で、取締役としての監査委員とは全く異なることを明確化させることも大きな課題と考えております。個別のテーマとしては監査委員会、指名委員会、報酬委員会の役割など各論にいたるまでを、会合や意見書、研修を通して理解を深める運動を今後とも続けてまいります。

上場企業の多くで、コーポレートガバナンスの内容について理解が浸透していない中、当協会の企業表彰コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー受賞企業のように、一部ではコーポレートガバナンスのあるべき姿を目指し実践し、業績向上と結びついてきたのも事実であります。これからも我々は執行部、独立社外取締役、投資家に対し、今の日本で必要とされるコーポレートガバナンスの中身を解きほぐし、多くの企業に対しコーポレートガバナンスを理解してもらい、それら企業が我が国の経済を牽引していくよう活動してまいります。

今後の活動へ向けて

コーポレートガバナンスの本来の目的に沿って取締役会の仕組みを変えていくことは、執行側にとっては居心地が良いものではありません。多くの年月と組織への忠誠により今の地位を獲得した経営者ほど、部外者から評価を受ける抵抗感が強いのは理解できます。しかし世界における企業間競争の現実、このコロナ禍やIT技術における変化の必要性、どれをとっても従来の延長ではさらなる成長は望めません。

飽くなき成長へのスピリット、これからの企業に何が必要か、何を変えていくかの執行側と取締役側の合意を形成し、経営の成果を部外の独立社外取締役に評価してもらい、投資家からの支持も得るという、従来とは違った経営者像の確立が求められるのです。それを是とする経営者の数を増やしていくこと、業績や社会、環境との繋がりを的確に評価する独立社外取締役の育成が急務であること、会社とともに成長を後押しする投資家、それらを育む信頼される市場の確立等、私共協会が前向きに取り組むべき問題は多々あります。

当協会はコーポレートガバナンスと経営に関する情報や意見交換ができる唯一の組織として、これからも多くの仲間を増やし、会員の皆様の大きなご理解とご尽力を賜りますことで、新たな飛躍の20年を目指し、前進していきたいと思います。

(2021年5月19日 第19回会員総会 会長所信より)