2016年7月26日
京都大学名誉教授 川北英隆
日本再興戦略のもと、コーポレートガバナンス・コードが動き始めて1年。
今後は、コーポレートガバナンスの中心を担う、社外取締役の役割が問われる時代になってきます。
第8回は、市場経済や証券市場に詳しい京都大学の川北名誉教授に、社外取締役の役割とその重要性について、教えていただきたいと思います。
「コーポレートガバナンスって何なのか」「何のために必要なのか」と問われたとき、十人十色、さまざまな答えが返ってくるだろう。このことを承知のうえで、筆者なりに答えておく。コーポレートガバナンスとは、「企業が未来に向かって生き延びるための、企業組織としての仕組み」だと。
「企業組織としての仕組み」と言われても、「何のことか」となるだろう。そこで、少し補足である。
まず、「生き延びるため、企業の内部や外部からいろんな知恵をもらい、それらを集め、活かすこと」がコーポレートガバナンスにとって重要であると思っている。ここでの知恵とは、意見やコメントである。この点、外部からの知恵がポイントとなる。外部者は内部の事情や制約を熟知していないから、かえって、ありのままの企業を眺めることができ、感想を口にできる。要するに、客観性が高いのである。企業が「あえて選ぶコンサルタント」よりも、より高い価値がある。
もちろん、ここでの外部者が識者でないと、その感想について「なかなかのもの」と評価できないのは当然である。それやこれや考慮するに、少し大仰に表現すれば、外部者とはご意見番だろう。
世の中が地理的に広がり(つまりグローバルになり)、また複雑化しているわけだから、ご意見番としていろんな人物に登場してもらうことが重要になってきている。ある場合は労働市場の関係者だろう。ある場合は証券市場の関係者だろう。消費者もいれば、女性かもしれない。誰をご意見番にするかは、企業の自己評価であり、判断である。
では、知恵をもらうのはどういう場面か。必要が生じた都度、ご意見番に質問することであろう。逆に、企業が気づかないときに、ご意見番が口を開くこともありうる。企業が特定の場面を決め、場を設定するのが本筋だろうが、「企業が気づかないとき」を意識すると、定期的な設定が望ましい。
取締役会おいて社外取締役が重視されるのは、ご意見番から意見を聞く機会を定期的に設定する意図だと、理解できる。そうだとするのなら、取締役会にかぎらず、それ以外の場(任意の委員会を含む)を企業が積極的かつ定期的に設けることにも大きな意味がある。
以上に基づくと、現在定められているコーポレートガバナンス・コードと、それへの企業や投資家の対応にはいくつか疑問がある。
1つの疑問は、本来、企業がご意見番を自由に選び、自由に意見を述べる機会を設けるべきなのに、取締役会が代表的だが、半ば強制されていることである。この点について、これまでの多くの日本企業が、外部者の意見を本気で聞こうとしていなかったのも事実であり、同じことだが取締役会が内部者中心のお手盛りだとの感も強い。これらからすると、「とりあえず、過渡期としては強制でも仕方ないのかな」と思えてくる。
また、社外取締役の顔ぶれが、特定の職業か特定の人物に集中していることである。ご意見番側の人材不足なのか、指名する側の見識不足なのか。多分両方が原因だと思える。
もう1つは、株主からのコーポレートガバナンスについて、一般的に株主総会での議決権行使に注目が集まる点である。議決権行使は意見表明の1つの形式でしかない。しかも、賛成か反対かだけの意見であり、中間がないうえに、具体的に何が過不足しているのかもわからない。多くの株主は企業の存続に関心がないし、当然積極的な意見もない。とすれば、「ご意見番の意見」からは程遠い。
より根本的な疑問は、大多数の日本企業の取締役会が企業経営者とオーバーラップしていることである。監督と執行がほぼ同一であるとの事実が、未来の企業の繁栄を助けるのかどうか、大いに疑問である。
日本企業が今すぐに示さないといけないのは、アメリカのように監督と執行を分離させるよりも、現在の未分離のままの方が経営的に望ましいとの証拠である。思うに、「アメリカの真似をしてうまくいくわけがない」との精神論的な日本企業の主張が虚しいほど、平均的な日米間の企業格差が開いている。
川北英隆(かわきた ひでたか)京都大学名誉教授 同経営管理研究部客員教授
京都大学経済学部卒業、京都大学博士(経済学)。日本生命保険相互会社取締役財務企画部長、中央大学国際会計研究科特任教授、同志社大学政策学部教授、京都大学大学院経営管理研究部教授を経て、2016年4月から現職。
専門は証券投資理論、金融市場分析。最近の著書に、『京都企業に学ぶ企業経営と株式投資』、『京都企業が世界を変える』、『「市場」ではなく「企業」を買う株式投資』がある。
現在、財政制度等審議会委員、みずほ証券社外取締役、日本取引所自主規制法人外部理事などを務める。