コーポレートガバナンスの実効性を高める内部監査

2018年2月13日

ゲスト:早稲田大学商学学術院教授 大月博司氏

世界各国でコーポレートガバナンス強化の動きがあるものの、企業による不祥事は後を絶たず、実効性を高めて中身の充実をはかるには、まだまだ課題が多いのが現状です。

第15回は、経営組織論を専門とされている、早稲田大学商学学術院の大月教授に、コーポレートガバナンスの現状と実効性を高めるための課題について語っていただきました。


 市場のグローバル化が進展するとともに競争が激化する中で、業種の如何を問わず不祥事による企業価値の毀損という現象が後を絶ちません。中でも、経営陣の指示による巨額な粉飾決算が行われたエンロン事件は記憶に新しいところです。そしてこの事件を契機に、不正の抑止につながる内部統制報告制度(J-SOX)が2006年にわが国でも導入されましたが、データ偽装、粉飾決算など不祥事に歯止めがかかりません。どうしてなのでしょうか。

 企業による不祥事の発生要因については、経営者の専断、リスクマネジメントの不全、人材不足などすぐに列挙できると思われますが、実際は想定以上に多様です。組織レベルでみれば、トップからロワーまで組織運営すべての面において不正の起こる可能性があり、それらに対して万全な策を講じることは実質的に難しいからのようです。

 各国でコーポレートガバナンスを強化する動きが見られるのも、こうした状況の反映といえます。コーポレートガバナンスはそもそも、企業価値の毀損を防ぐための仕組み、換言すれば、実権を握る経営者の専断行為をチェックするための仕組みです。それが今や、企業価値の毀損抑止だけでなく、さらに企業価値の向上を促進する仕組みであることも期待されるようになっています。これはどのように考えたらいいのでしょうか。

 わが国の場合、上場企業は、経営者による不祥事が生じないコーポレートガバナンス体制の構築と実践を余儀なくされています。もっとも、期待されるコーポレートガバナンスについて、たとえば、投資家は投資リターンの最大化、経営者は経営理念にもとづく持続的企業経営、規制当局は経済の活性化、を実現する仕組みだというように、見方に違いがあります。したがって、コーポレートガバナンスの実践は各企業の実態に即して様々です。

 その上さらに、近年、外国法人等が東証の株式保有比率の30%以上を占め、国内の機関投資家の割合と合わせると両者で保有比率50%を超えるようになりました。このため、存在感を増した「物言う株主」の主張に経営側は耳を傾けざるを得なくなり、コーポレートガバナンスについて、企業価値の毀損回避だけでなくその向上に資するものだ、という見方が投資家を超えて広まりました。その結果、2014年の会社法改正と2015年の監査等委員会設置会社の導入、コーポレートガバンス・コードの策定等によって、上場企業はコーポレートガバナンス体制の整備・充実がより求められるようになったわけです。さらにいえば、会社法改正には日本企業の国際的な評価を高め、海外からの投資促進も意図されているようです。その狙いはともかく、上場企業に「株主の権利確保」、「透明性の確保」、「株主との対話」などの基本原則をベースに、コンプライ・オア・エクスプレインの形式でその遵守を求めるものとして策定されたコーポレートガバナンス・コードは、形だけのコーポレートガバナンス体制から、その実効性を高め、企業の不祥事回避ばかりでなく企業価値を高める実践的道筋を示したものといえましょう。

 以上のように、仕組みとしてのコーポレートガバナンスが制度的に強化される中で、法的な義務づけは実現されませんでしたが、経営者の行動を外部の視点からチェックする独立社外取締役の登用もようやく事実化しました。とはいえ、監査等委員会などにおける独立社外取締役は常勤者でない上、その業務をサポートする直属スタッフがいません。そこで、組織横断的に内部状況に精通する内部監査部門にその役割が期待されるようになりました。内部監査は本来、経営者の委託した業務が適切に運営されているかの業務監査を通してアシュアランス機能ばかりでなく、組織の経営活動に価値を付与するため業務プロセスに問題を発見すれば、その解決策を経営者に提示するアドバイザリー機能の発揮が求められるものです。しかし、経営者の内部監査に対する認識度合いによって社内におけるその位置づけは様々であり、一律にこれを有効活用させようとしても実態としては無理が生じてしまいます。

 独立社外取締役によって、経営者のための監査から経営者も対象とする監査へと内部監査への要望が高まりつつあることから、内部監査はコーポレートガバナンスを強化するために重要なファクターとならざるを得ないでしょう。内部監査の充実が、その存在意義から企業価値の向上につながることは明らかであり、企業外から要請されるコーポレートガバナンスの実効性を高めるためには、企業内の問題発見と解決に資する内部監査体制の充実を図ることが今後の課題になるかと思われます。


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大月博司(おおつきひろし)早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学商学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学、早稲田大学博士(商学)。北海学園大学経済学部講師、助教授、教授、同大学経営学部教授を経て、2004年9月から現職。
専門は経営組織論、組織コントロールと組織ルーティンの分析。主な著書に『組織変革とパラドックス(改定版)』、翻訳に『Hatch組織論』、『行為する組織』などがある。
現在、大和住銀投信投資顧問株式会社取締役、経営戦略学会会長、経営哲学学会理事、山城経営研究所経営道コーディネーターなどを務める。