2018年6月11日
ゲスト:公認会計士原邦明事務所 原邦明氏
世界各国のコーポレートガバナンスを見渡すと、日本は政官主導であるがゆえに、独特の課題が多く残っております。
第16回は、監査法人での経験をもとに、社外役員として活躍されている、公認会計士の原邦明さんに、コーポレートガバナンスの現状と実効性を高めるための課題について語っていただきました。
2014年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014」において、来年の株主総会のシーズンに間に合うよう新たに「コーポレートガバナンス・コード」が策定されるよう支援するとの諸施策が盛り込まれ、2015年6月1日付で東京証券取引所から「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上のために~」が策定・公表され、実施に移されている。
既にこれらのコードを導入している先進諸国でも政官主導で導入した国はなく、何かにつけて政官に依存する日本の体質が出ているのではないかと思われる。少なくとも、その導入に当たっては個々の企業に主体性を発揮してもらいたいと思うのは私だけであろうか。
コードの導入先進国であるUKでもコードが導入されてから20年余を経過した2014年におけるFTSE350対象企業のコード遵守状況を見ると、コンプライしていないコードが2項目以内の企業は全体の94%となっており、この数値はかなり高い数値であるとしている。そしてその原因として、議決権行使助言会社の影響力が増大しており、その対応のため企業が形式主義に陥っていることが指摘されている。
一方でわが国においては、日本人固有の形式的順法精神からか、導入2年目の2017年には90%以上コンプライしている会社が東証一部上場会社の約93%にも達している。
しかし、その内容を見てみると、本当にその趣旨を理解してコンプライしていると表明しているのかを疑ってしまうような「なーんちゃってコンプライ」が散見される。また、エクスプレインもそのほとんどが「現在その導入を検討しています」といった「To-doエクスプレイン」が大半の状況である。
コード導入の前後から、多くのセミナー等が開催されているが、監査役会併設会社における取締役会は主に執行の意思決定を行う機関設計であり、指名委員会等設置会社の取締役会とはその性格を異にするにもかかわらず、そこを無視して、一律に社外取締役はかくあるべき的な説明が多く、これが混乱に拍車をかけているように思われる。
なお、会社法制の見直しに関する中間試案では、監査役会併設会社においても一定の要件を満たす場合には執行の権限を取締役に委任することができる旨の案が示されているところではある。
本来的には、モニタリングボードの性格を重視するなら指名委員会等設置会社もしくは監査等委員会設置会社へ移行することを検討すべきなのではないか。すくなくとも、前回の会社法の改正を受けて、会社の機関設計について取締役会において真剣な議論が行われた会社がどの程度あるのだろうか。
くわえて、指名委員会等設置会社の25%に当たる会社の指名委員会の委員長を執行の責任者である社長や会長が務めているが、それなら指名委員会等設置会社にしなければよいだろうと考えるのは私だけであろうか。
ガバナンス強化論の目的は個々の企業の持続的成長と中長期的な企業価値の増加にあるにも関わらず、コードをコンプライすること自体が目的化しているのではないかと思われる事例が数多く見受けられる。金融庁の「フォローアップ会議」でも形式的な適用から実質的な適用へ向けた論議が行われている所以である。
日本取締役協会で10年以上にわたり勉強させていただいている者として、目的は個々の企業の持続的成長と中長期的な企業価値の増加にあることを明確にしたうえで、その手段の一つとしてのコーポレートガバナンス論の大切さを積極的に主張していき、企業が本来の目的を達成することを側面から支援しうるよう行動していきたいと考えている。
原邦明(はらくにあき)公認会計士原邦明事務所 代表
1971年に等松青木監査法人(現有限責任監査法人トーマツ)入社。1999年から経営会議メンバー、2001年からCFO、2007年からCRO及びトーマツが加盟する国際組織であるDeloitte Touche Tohmatsu Ltd.のBoard Memberとして、監査法人及びその国際組織の経営に参画。2012年7月に同法人を退職し、公認会計士原邦明事務所を開設。2014年5月から㈱良品計画社外監査役、2014年6月から㈱ジャックス社外取締役(現在)。日本取締役協会の活動には2005年から参画している。