ガバナンス議論の神髄をなすアカウンタビリティー

2023年4月16日

八田進二(青山学院大学 名誉教授)

わが国でガバナンス議論が喧しくなった最大の理由は、上場会社向けの「コーポレートガバナンス・コード」の制定とそれへの遵守が求められるようになったことであろう。有効かつ効率的な経営を実践するためには、健全な組織運営の確保に尽きるが、それを、株主はじめ、すべてのステークホルダーに対して見える形にすることが不可欠なのである。これまでも、経営者は、株主から付託された経営責任をいかに履行したのかを決算書を通じて詳らかにし、株主の納得を得ることで自らの責任を解除してもらっている。これこそが、経営者に課せられたアカウンタビリティー(説明責任)の原点であり、「コーポレートガバナンス・コード」の目指すべき方向性も、こうした視点と軌を一にするものといえる。

そもそも、アカウンタビリティーとは、「会計」と翻訳されるアカウンティングに相通じる概念で、真実かつ適切な情報の開示により事の経緯や顛末について報告・説明し、関係者の理解と納得を得ることで果たすことのできる公的な「結果責任」なのである。したがって、何の根拠や証拠も示さず、ただ単に饒舌に話を行うことで「説明責任を果たした」との誤解がまかり通っている風潮は、かえって当事者に対する信頼を失墜させることになる点に留意すべきである。

それに対して、指示された役割や業務を誠実に実行することで果たすことのできる履行責任としてのリスポンシビリティー(執行責任)があるが、これはあくまでも個々人の問題としての責任であり、両者の責任は明確に識別される必要がある。わが国の場合、個々人が果たすべき役割については、各自が忠実に履行義務を果たしている場合は多い。しかし、最終的に責任を負うべき立場の者が自身の履行義務を含め、そうした役割を適切に果たしたことを説明できていない場合が多く見られるのも事実である。その際の批判に対する回答の常套手段として用いられるのが、「守秘義務」である。確かに、業務上知り得た秘密情報等については、一般にも、厳格な守秘義務が課せられている。しかし、企業の経営者や社会的に責任ある立場の者の場合、自らの任務ないしは役割を誠実に履行したことに対して関係者からの納得を得ることができなければ、結果に対して信頼を得ることは極めて困難である。そのためにも、常に真実かつ適切な情報の開示を基に、納得しうる説明を誠実に履行することが不可欠なのである。

このように、透明性あるかたちで、必要な情報を適時・適切に開示することは、健全なガバナンスを構築する上での原点をなすものといえる。とりわけ、企業不祥事が顕在化した時に問われるのが、早期の謝罪と同時に、事の真実について説明責任を果たすべきだということである。その際、説明責任の履行とは相容れない、きわめて稚拙かつ不誠実な対応に終始することでは、到底社会の理解は得られず、かえって、企業価値を棄損してしまう事態を招来することが想定される。そのためにも、ガバナンス議論の神髄をなす、アカウンタビリティーの意味する実質的な意義について、十分に理解しておくことが求められる。

八田進二
青山学院大学 名誉教授 

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