指名委員会こそ、健全なガバナンス構築の根幹

2023年12月19日

八田進二(青山学院大学 名誉教授)

21世紀を迎えた米国の資本市場は、2001年12月のエンロン社、そして2022年7月のワールドコム社の破綻により、厳格な規制強化の目玉として、企業改革法(SOX法)が制定されたことは周知のとおりである。ただ、こうした経営トップ主導の会計不正に関しては、業務執行に対する監視・監督が期待されている監査委員会の機能不全に対し、非常に厳しい批判が相次いだのである。これに対して、監査委員会のメンバーからは、当時、報酬委員会が株価を基礎とした業績連動型の経営者報酬制度を採用していたため、恣意的に株価の上昇を操作する経営マインドを抑止することができなかったということで、報酬委員会に対して批判の矛先が向けられたのである。ただ、報酬委員会からは、そもそもこうした貪欲で倫理感の乏しい経営者を選任した不適格な指名委員会にこそ、不正を誘発する最大の原因があったとの指摘がなされたのである。

まさに、落語にある「三題噺」にもなりそうな話ではないだろうか。すなわち、今日わが国でも推奨されている、指名委員会等設置会社を構成する3つの分科委員会(監査委員会、報酬委員会、指名委員会)のすべてに課題が投げかけられたのである。

確かに、わが国でも止むことのない会計不正やその他の不祥事案を見るにつけ、それが長期にわたり全社的に蔓延っている不正や不祥事の場合、そのほとんどにおいて経営トップの責任が問われる事案になっていることから、経営者の責任は極めて大きいのである。したがって、そうした大きな責任を有する適格な経営者がいかにして選任されるのかといった問題こそ、健全なガバナンス構築の根幹をなすものといえる。

「コーポレートガバナンス・コード」の導入以来、指名委員会等設置会社以外の機関設計を採用する会社でも、取締役会は、「独立社外取締役を主要な構成員とする独立した指名委員会・報酬委員会を設置すること」で、これらの委員会の適切な関与・助言を得るべきであると提言されている。さらに、経済産業省公表の「指名委員会・報酬委員会及び後継者計画の活用に関する指針」(2022年7月19日)では、指名委員会・報酬委員会設置の目的として、①社外取締役の関与を強めることと、②メンバーを絞って効率的な議論をすることを挙げている。つまり、こうした目的は、社長・CEO等の経営者の選解任のプロセスを透明化するとともに、株主等のステークホルダーに対しての説明責任を果たすことが主眼とされている。しかし、真に必要なことは、十分な時間をかけて、経営者としての適格性と倫理性およびインテグリティを備えた者を選任するとともに、適切なリスクテイクを促すための仕組みとして機能するような報酬方針の下、経営者に対してのインセンティブを与えるような報酬額を決定することであろう。このように、まずは指名委員会が実効性ある形で機能することこそ、健全なガバナンス構築の原点であるといえる。

八田進二
青山学院大学 名誉教授

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