2014年の「日本再興戦略」で提言されたわが国のコーポレートガバナンスの強化は、企業の稼ぐ力を高め、持続的成長を促して企業価値を向上させることに主眼が置かれていたのである。そして、こうした成長戦略に資するために、社外取締役の積極的な活用が推奨されたのである。しかし、現実には、健全な発展・成長を阻害する企業不祥事が絶えないのが実情である。多くの不祥事が露呈した場合、決まって講じられるのが、第三者委員会の設置による原因究明と再発防止策の提言を受けることである。
この点、「コーポレートガパナンス・コード」の原則4-7「独立社外取締役の役割・責務」では、経営の方針や経営改善について助言を行うことに続けて、「経営の監督を行うこと」が規定されていることから、経営陣に関わる不祥事の場合には、社外取締役の実効性が問われることになるのである。つまり、業務プロセスレベルでの不祥事については、当然に、そのラインの管理責任者および執行部門の責任者が前面に立って説明する義務があることに異論はないであろう。しかし、長年にわたり、かつ、広範囲の組織にわたる不祥事案件や、経営者を巻き込んだ不正、更には、経営サイドのガバナンス不全が問われる場合には、もはや、執行のトップに依存することは困難であるばかりか、社会の人々の信頼を得ることはおぼつかないものといえる。したがって、そうした経営の根幹にかかる不祥事の発覚といった有事の場合には、それこそ、株主をはじめ広くステークホルダーの利益を守るといった立場からも、社外取締役が率先して、説明責任を履行することが肝要である。それどころか、企業自身の自浄能力を発揮するためには、直ちに第三者委員会を設置するのではなく、まずは、社外取締役や社外監査役といった独立社外役員がイニシァチブをとって、調査委員会や検証委員会を牽引することが求められるのである。あるいは、第三者委員会に委ねざるを得ない場合であっても、当該委員会の委員の選任や調査項目の選定等については、独立した立場から、社外取締役が率先して対応を講ずることが求められているといえる。
しかしながら、社外取締役がこうした役割を十分に認識して、不祥事対応とその後の説明責任を果たしたといえる事例については、寡聞の限り、ごく稀にしかないのが実態である。それどころか、例えば、関西電力会長の榊原定征氏の場合、同社の一連の不祥事を受けて、会見など公の場で説明などはしてこなかった点について、「私は社外取締役。記者会見は執行の責任者である社長が行うのが原則。出るべきではないと思っている」(2023年7月29日「関電会長 相次ぐ不正を謝罪」朝日新聞)と述べている。これでは、何のための社外取締役なのか。株主から選ばれた立場からも、最低限、監督対象の経営陣の不祥事に対しては、率先して説明責任を果たすことが不可欠であると認識すべきである。
八田進二
青山学院大学 名誉教授