Purposeを起点とした価値創造とコーポレートガバナンス

2024年10月16日

瀬戸 欣哉(株式会社LIXIL取締役 代表執行役社長 兼 Chief Executive Officer (CEO))

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.16 - 2024年8月号 掲載 ]

持続的成長に向けたパーパスの策定

私たちを取り巻く環境やライフスタイルは変化していますが、より豊かで快適な住まいを求める人びとの思いはいつの時代も変わりません。LIXILは、トイレやお風呂などの水まわり設備、窓やドアをはじめとする住宅建材など、幅広い製品をグローバルに提供しており、住まいと暮らしを支える企業として社会的な使命を担っています。事業の変わらない軸として、2021年に「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」という パーパス(存在意義)を明確化しました。

国内外で複数の企業を統合して成長してきた当社にとって、約5万3千人の従業員が同じパーパスを共有することは、強い目的意識を持った多様なチームを作るうえで大きな意義があります。加えて、パーパスを追求する中で、従業員がどのように考え、行動すべきかという指針を示すため「Do the Right Thing(正しいことをする)」「Work with Respect(敬意を持って働く)」「Experiment & Learn (実験し、学ぶ)」を「LIXIL Behaviors(3つの行動)」として設定しています。

事業活動を通じて社会課題の解決を目指す

当社では、事業戦略を実行し、価値を創造する原動力は従業員であるという考えから、従業員を中核に据えた「価値創造プロセス」を構築しています。パーパスと LIXIL Behaviors に基づき、この価値創造プロセスに沿って社会・環境課題の解決と持続的な成長に向けた事業活動を続けていく中で、当社では多くのイノベーションが生まれています。

当社では、SATOというソーシャルビジネスを立ち上げ、上下水道の整備が十分ではない開発途上国の人びとに、安価で革新的なトイレや手洗いソリューションを届け、衛生環境の改善に貢献しています。SATOは、当社のパーパスを体現する事業の代表事例であり、従業員が当社で働くことにやりがいや価値を見出し、仕事への誇りにつながる好循環が生まれています。

また、気候変動という喫緊の課題に対しても、自社の技術や強みを生かしながら、積極的に取り組んでいます。例えば、低炭素型アルミ形材「PremiAL(プレミアル)」は、アルミの原材料をリサイクル材に置き換えることで、CO排出量を大きく削減でき、資源の循環利用を実現する画期的な製品です。環境課題だけにとどまらず、介助が必要な高齢者の方でも簡単に全身を洗える泡シャワー「KINUAMI」など、社会の変化や多様な顧客ニーズを踏まえた、当社ならではの差別化製品を拡充しています。

パーパス推進の基盤となるコーポレートガバナンス

こうしたイノベーション創出には、取締役、執行役、経営幹部、従業員がOne LIXILとして一丸となり、誰もが尊重され生き生きと働ける風土と風通しのよいコミュニケーションを実現し、迅速かつ果敢に意思決定を行うことができる経営体制が欠かせません。この体制実現に不可欠なのが、企業の健全な経営の基盤となる、強固なコーポレートガバナンス体制の確立だと考えています。

当社は2019年以降、コーポレートガバナンス強化のため、さまざまな取組み(図参照)を実行してきました。外部専門機関を活用した取締役会の実効性評価でも、コーポレートガバナンスの再構築が確実に前進していると確認されています。

当社は取締役10名(うち、社外取締役8名、女性4名、外国籍1名)、執行約8名(うち女性3名、外国籍2名)という構成で、事業戦略上の重要性を踏まえたスキル・マトリックスの活用により、多様性に富む経営経験者や各領域の専門家がそろっています。このような構成の中で、取締役会が当社の事業に即した監督をできている要因として、私が感じていることを一部ご紹介します。

1 当社の法定の三委員会は、すべて社外取締役のみで構成されており、独立性が確保されています。したがって、CEOである私は指名委員会における取締役の選任決議に一切関与しません。指名委員会は当社の企業価値向上と持続的成長に必要なスキル項目の特定とバランスを十分に検討し、透明性と公正性をもって取締役候補者を選任しています。また、執行役の選任プロセスにおいては、執行サイドで後継候補の育成を行い、指名委員会は育成状況・育成計画のモニタリングを行っており、計画的なサクセッションを実行しています。

2 当社の取締役会や各委員会では、中長期的な企業価値向上を視野に、それぞれの専門的な知見を活かした議論が交わされています。その一助のため、社外取締役に対して、事業の根幹となる現場の理解を深める場が用意されています。新技術に関する展示会や工場等の視察に加え、各拠点で従業員との対話を行うラウンドテーブルを企画し、肌感覚で従業員の士気や会社の雰囲気を掴んでいただいています。こうした取組みを通じて、現場に パーパスがどう浸透しているのか、社外取締役が深く知る機会につながっています。また、視察後は、社外取締役から全社に社内SNSでメッセージが発信され、従業員との距離を縮めることにも役立っていると感じます。

今年の定時株主総会で、2019年からコーポレートガバナンスの再構築をリードしてきた前任の取締役会議長が退任し、新たな議長が就任しました。この監督体制のもと、今後は、社外取締役のサクセッションも、ガバナンスの維持・向上に向けて重要なキーになると感じています。

従業員が パーパス実現の源泉であることはいうまでもありませんが、従業員が能力を発揮するための土台のひとつは、強固なコーポレートガバナンス体制です。CEO含めた執行サイドとしても、更なるコーポレートガバナンス体制の進化に取り組み、執行サイドと監督サイドがそれぞれの役割で、適度な距離感を保ちながら当社の企業価値の向上、ひいては パーパス実現に向けて歩を進めていきたいと思います。

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瀬戸欣哉氏

瀬戸欣哉Kinya Seto
株式会社LIXIL取締役 代表執行役社長 兼 Chief Executive Officer (CEO)
東京大学経済学部卒業後、1983年住友商事入社。MonotaROを創業し、工場用間接資材のネット販売事業で国内市場をリードする企業へと成長させた。国内外10社以上の起業経験を持ち、米国の資材流通大手W.W. Grainger Inc.にて要職を担った。2016年、住宅設備・建材メーカーLIXILの社長兼CEOに就任。

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