2021年6月改訂の「コーポレートガバナンス・コード」の補充原則4-11①では、「取締役会は、経営戦略に照らして自らが備えるべきスキル等を特定したうえで、...略...各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスをはじめ、経営環境や事業特性等に応じた適切なかたちで取締役の有するスキル等の組み合わせを取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。」と規定されている。これを受け、上場企業は、株主総会招集通知において、ほぼ定型的な一覧表をもって、取締役候補者の資質等を開示している。そこで採用されている具体的なスキルとしては、「企業経営」「法務・コンプライアンス」「財務・会計・税務」「リスク管理」「海外経験」「ESG・サステナビリティ」など、まさに、責任をもって企業経営を推進するのに不可欠な資質が網羅されているのである。その際、株式会社の機関設計の違いにより、また、社内取締役と社外取締役とでは役割の違いもあり、求められる資質ないしスキルは、当然に異なるものの、その点での明確な識別は見られないのが実態である。
しかし、社外取締役については、基本的に非業務執行の立場から、他の取締役および執行役等、業務執行に係る役職者を監視・監督する点に最大の使命があることを認識すべきである。中には、自身の経営経験や成功体験をもって、経営のアドバイスを行い、あるいは、法や会計等の専門知識を駆使して顧問的業務に心血を注ぐといった社外取締役も決して少なくはない。しかし、企業サイドとして、仮に、経営上の成功体験や、より専門的な法律ないしは会計・財務等のアドバイスを期待するのであれば、それは、社外取締役としてではなく、別途、「経営アドバイザー」「法律顧問」「会計顧問」等の立場で支援を求めるのが筋である。
つまり、社外取締役は、あくまでも、企業経営の健全性と持続的な企業価値の向上に向け、当該企業の経営陣に対する監視・監督を厳格に行うことが最大の使命なのである。そのため、全社的なレベルでの内部統制上の不備や、結果として経営陣の責任が問われるような問題が惹起した場合には、当然に、社外取締役の責任についても厳しく問われるべきである。社外取締役は、そうした重い責任があることを自覚すべきである。
そして、こうした不祥事が顕在化した企業の場合には、選任に際して開示されていた各取締役のスキルとの兼ね合いで、どこに課題があったのかを明確にするためにも、適時開示の一環として、当該企業の社外取締役の対応状況を具体的に開示することが必要不可欠である。さらに、社外取締役が率先して、当該不祥事に対する対応状況等について、十分な説明責任を果たすことが極めて重要なのである。
八田進二
青山学院大学 名誉教授