Return on Invested Capitalの略で、「ロイック」と読む。日本語では「投下資本利益率」と呼ばれ、ROE(株主資本利益率)と並ぶ代表的資本生産性(効率性)指標である。ROEが「税引後当期純利益」を分子、「株主資本(純資産)」を分母として計算されるのに対して、ROICは「税引後営業利益(NOPAT)」を分子、「有利子負債+株主資本(投下資本)」を分母として計算される。
企業が営利組織である以上、いうまでもなく企業価値の拡大は極めて重要な経営目標である。4月号で議論したPBRが1割れという状態は、企業価値が毀損されている状態である。このようなPBR1割れを解消し、企業価値拡大を目指すには、ROEが株主資本コストを、ないしは、ROICが加重平均資本コスト(WACC)を上回ることが条件となる。
日本企業に資本コストを意識した経営を求めたのは、2014年に経産省より公表された伊藤レポートである。当初はROEと株主資本コストを意識した経営が推奨されていたが、近年ではROICにより大きな注目が集まるようになってきた。これはROEが負債(レバレッジ)の利用により操作可能であるのに対して、ROICが財務戦略(資本構成)に影響を受けず、純粋に事業の資本生産性を評価できるという利点があるためである。
ROICは以下のように分解できる。
ROIC=売上高営業利益率×(1―税率)×投下資本回転率
さらに売上高利益率は販管費率と原価率に、投下資本回転率は運転資本回転率と固定資産回転率に分解できる(投下資本回転率=売上高÷投下資本と定義される)。
ROICはさらに細かく分解できるが、それを可視化したものをROICツリーと呼ぶ。ROICをより詳細に分解することで、ROICを改善するために、どのような施策を打つべきか現場レベルでの「気づき」を促すことができるようになる。
従来日本企業は、売上高利益率等損益計算書(PL)中心の経営管理が主流で、貸借対照表(BS)とPLを有機的に関連付けた経営管理が苦手であった。ROICによる経営管理では、売上高営業利益率に加えて、投下資本回転率というBSとPLを繋ぐ指標が明示的に経営管理目標となる。投下資本回転率を向上させるためには、売上高拡大またはバランスシートのスリム化が手段となる。バランスシートのスリム化とは無駄な資産を持たないことによって、投下資本を減らすことで達成される。日本企業にもROICを経営プロセスに取り入れて、大きな成果を上げている企業が出始めている。
このようにROICを経営管理目標とするということは、PLに加えてBSを有機的に結び付けて管理するということを意味している。 そして、そのような経営管理によって、企業価値の拡大が達成されると同時に、企業の本源的競争力、サステナビリティが強化されると考えられるのである。
熊谷五郎
公益社団法人 日本証券アナリスト協会 企業会計部長