経営の監督機能と業務執行機能との分離を図ることで、実効性の高いガバナンスを構築するとの理念の下に導入された指名委員会等設置会社ではあるが、制度導入後20年を超えた今でも、上場企業のうち100社にも満たないのが実態である。確かに、株式会社の機関設計として、旧来の監査役会設置会社からこの指名委員会等設置会社に率先して変更する企業は、法の主旨からも、先駆的なガバナンスを採用する優良企業であるかのような評価がなされたのである。そのため、いわゆる企業不祥事等が発覚した企業の中には、ガバナンス改革の名の下、新たに指名委員会等設置会社に機関設計の変更をする企業も散見されたのである。しかし一方で、監督機能の強化が図られていると解されていた、この指名委員会等設置会社においても、複数の経営者不正や不祥事が発覚してきている。
それどころか、社外取締役が多数就任している企業の場合、社内取締役が多数を占める企業に比して、社内の情報共有が希薄になる恐れが指摘されている。実際に、機関設計いかんに関わらず、形式的に社外取締役が多数就任していながらも、経営者責任が問われるレベルの不祥事が顕在化する事例も散見されるからである。その際、ほとんどの社外取締役は、社内における重要情報等が適時・適切に伝達されていないということを理由に、自身の責任を回避する姿勢がみられるのである。
そもそも、欧米で採用されている委員会設置会社(わが国の指名委員会等設置会社に類似した機関設計)においては、社外取締役の監督責任を履行するために、有効な内部統制の整備・運用を厳格に要求しているのである。つまり、内部統制の基本的な構成要素の一つでもある「情報と伝達」が有効に機能していることで、初めて社外取締役は、必要な情報を適時・適切に入手することが可能となるのである。そのため、こうした構成要素からなる内部統制の有効性を適切に評価する責任は、取締役会を構成する社外取締役の重要な責務なのである。したがって、社外取締役の場合、重大な不祥事が発覚した時に、そうした不祥事に直結するリスク情報について、「知らされていなかった」とか「聞いていない」という抗弁は通用しないのである。それは、当該企業の内部統制が脆弱であり、有効に機能していなかったことの証左であり、それを黙認ないし放置してきた社外取締役の責任は極めて大きいといわざるを得ない。
株主をはじめ多くのステークホルダーは、著名な社外取締役が選任され、多数の社外取締役が就任している企業の場合、ただそれだけで、健全かつ強靭な経営が担保されていると誤解しがちである。それは、企業にとっても好都合であり、それを目指して著名人の起用や多くの社外取締役の選任を率先しているかのような事例も散見される。そうした見せかけの社外取締役を擁する企業は、まさにガバナンス粉飾の誹りを免れないのである。
八田進二
青山学院大学 名誉教授