「社外の目」への期待

2021年5月13日

大八木成男(帝人 株式会社 相談役)

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.6 - 2021年4月号 掲載 ]

新型コロナの流行以前から社会は歴史的に大きなうねりの中にある。過去の延長線上に未来はないといわれる所以かと思う。グローバル化、高度情報化社会への移行、人口減少と高齢化による多くの産業構造の変化にかかわる課題が我国に重く圧し掛かる中で、わが国の企業にはデジタルトランスフォーメーションとカーボンニュートラルの実現に向けた自己革新力が問われている。

もとより企業経営は新たな価値の創造が使命である。残念なことに、長引くコロナ禍の中で、中期経営計画や大規模投資を無念の気持ちで見直す経営者も多いと思う。新型コロナへの対処のみならず、未体験の経営環境の変化に従前の常識で対処していくのは厳しい。VUCAの時代、固定観念が強い文化の中で育った人のみでは経営課題に対処しても限界がある。

事業がつまずくと、往々にして内の目からは安易な自己評価(言い訳)が出やすい。環境変化が激甚なほど、計画達成度の正確な評価とつまずきの真因を問い詰める空気も薄れがちになる。だが、外の空気は冷たい。このような時が、事業をじっくりと見つめ、大きく動かす最良の機会となる。想定されるリスクとリスク発現時の対処策について、外の目と大いに議論し、外の空気がもたらす緊張をばねにじっくりと企業文化の再創造に挑戦してほしい。

社会は企業経営に高い透明性を求める。多くのステークホルダーは公表される事業業績を支える経営戦略、コーポレートガバナンス、ESGへの取組みをはじめ、取締役会、監査役会をはじめ、各種委員会で社外役員の監督レベルが高いかどうかに関心を持っている。多様な領域で鍛えた眼力のある外の目が、適格に内の視野狭窄を正し、事業の先行きのリスク対処を促し、また協奏的イノベーションを促進するオープンな企業文化を根付かせることを期待する。社外取締役が、持ち前の福の目と鬼の目で今後の産業革新の後押しを進めることに大いに期待したい。

帝人 株式会社
相談役
大八木成男