本稿の執筆中に、ロシアのウクライナ侵攻が激化している。戦火で亡くなられた方々、爆撃等の被害に遭われた現地の皆さんに哀悼の意を表するとともに、一日も早い終結を祈念したい。
次期のCEOの選任が現CEOの専管事項である時代は、ほどなく、しかも自然に終わっていくであろう。企業の経営環境があまりに複雑化し、従来の施策の踏襲では対応が困難であることを企業経営者自身が強烈に認識し始めたからだ。日本の上場企業が個別の違いはあるにしても全体としては成長力に欠け、BS上のキャッシュは増え続け、海外企業比、SDGsやDXへの対応の遅れがみられるのも、CEOの選任方法と無関係ではないだろう。今こそ法令に基づく指名委員会制度の導入をお勧めしたい。
CEOは、あくまで企業の所有者である株主から委託を受けて経営を行う代理人であり、その選定は、所有者として社会全体に対して責任も負う株主が行うべきと考える。その任を果たすべき法令上の指名委員会の活用の度合いは低水準(2%)に留まっている。
コーポレートガバナンスを研究しているメトリカル社の松本昭彦氏らの分析によれば、指名委員会メンバーの過半数を社外取締役が占め、かつ社外取締役が当該委員会の委員長を務める上場企業のROEは、指名委員会等設置会社5.5%と、監査等委員会設置会社3.7%、監査役設置会社5.1%に比して高いそうだ(2019年)。この結果が必ずしもガバナンス形態と収益性の因果関係を示すものではないだろうが、その制度的価値のひとつの示唆にはなり得る。
株主の意思を反映させる場合も、主要株主の保有比率とその影響力について注意を払うべきだ。先のメトリカル社によれば、50%以上を所有する株主が存在する上場企業のROEは8.14%と、20-50%の企業群6.94%、20%以上の企業群6.12%に比して高いという分析がある(2022年1月)。これらの企業群は、比較的規模の小さなものが多く、親会社あるいは大株主のブランドと信用力の活用、迅速な意思決定と行動への速やかな反映、ビジネスのわかりやすさなど、パフォーマンスが高水準になる要素はいくつかあろう。しかし比率の大小はともかく、親子上場関係にある親会社は、上場子会社の取締役からCEOの選定まで、実際上全てを決定してしまいがちだ。ここに利益相反の大きなリスクが存在する点に、双方が注意を払うべきだ。
これからの日本の上場企業は、仮に大株主の存在があったとしても、企業価値の最大化を最重要の目的として、取締役やCEOの人選や当該企業の経営戦略や諸政策に対して、客観的な人材活用を行っていくべきだ。結局のところ、その公平性に基づく思想の実践が、大株主自身にとっても最大の経済的メリットをもたらす。世界中の投資家が静かに日本企業の対応を見守っている。
株式会社アドバンテッジパートナーズ 代表パートナー
笹沼泰助