この10年、進んできたガバナンス改革。うねりは「形式から実質へ」と進化し、その一丁目一番地は「CEOの選解任」にあると言われる。ガバナンスの核心が「監督と執行の分離」にあるならば、実質を評価するモノサシとして、取締役会がCEOをどれほど「正しく選任」し、どれほど「正しく解任」しているかを診ることが適切だろう。
日本取締役協会コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤーおよびその特別賞・経済産業大臣賞選考委員としての経験から言えば、「選任」のほうは確かに変わってきた。
「解任」のほうはどうだろう。少し面白いデータを発見した。「日本の電機産業はなぜ衰退したのか」(集英社新書)で引用された2019年のCNNニュースによれば、「米国の株式市場を包括する株価指標ラッセル3000指数に入る企業で過去二年間に辞任したCEOのうち、52%は自ら辞任したのではなく、取締役会から引導を渡された可能性が高い」というのだ。
どの国であっても、選任より解任のほうが難易度ははるかに高い。かの地でも取締役会は心を鬼にして解任するという断腸のプロセスを通っているはずだ。執行も監督も真剣勝負そのものなのだ。「ガバナンスの実質」とは本来、この真剣勝負の存在を指すのではないか?
我が国では約半数の上場企業のPBRが長らく一倍を切るという異常事態が続いている。低パフォーマンスのCEO責任は社会的に問われることなく、結果として許容されつづけている。難しいのは社外取締役を過半数にしても、指名委員会等設置会社を増やしたとしても、低パフォーマンスのCEOが「正しく解任」されるとは思えない点だ。問題は、我々の心に潜んでいる「あえて波風を立てなくても...」という心の中の「壁」にある。 ガバナンス改革はいまや大きな難所にさしかかっている。この難所を乗り切って「実質」に至るには、ひとりひとりの社外取締役、私のような機関投資家、そしてもちろんCEO本人を含む、すべての企業人のフィデューシャリー意識にメスを入れるしかない。
みさき投資株式会社 代表取締役社長
中神康議