「コトづくり」に長ける米国の5社GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)の時価総額は、今や14兆ドル(2024年10月21日現在)を超えてきている。好調の背景には、米国S&P500の時価総額に占める「目に見えない資産」(無形資産など)の割合が、2020年に90%に達したこと(Ocean Tomo, IAMV Study, 2020)があるといわれる。一方、日経225の時価総額に占める「目に見えない資産」の割合は32%(同Study)とされ、「モノづくり」の強みである「目に見える資産」(有形資産など)が時価総額の7割近くを占めているものの、PBRの低さが問題視されている。
「目に見える資産」とは、工場や製商品などの物的資産や、現預金・売掛金、資本金などの金融資産で、通常バランスシートに見えている。一方、「目に見えない資産」とは、顧客資産や人的資産、さらに最も大切とされる組織資産(経営理念、ガバナンス、ビジネスモデル、戦略、リスク管理、内部統制、DX、知的財産など)だが、M&Aによるのれんなどを除き、通常バランスシートには見えない。
しかし、「目に見える資産」のみならず、「目に見えない資産」が価値創造の源泉となることはGAFAMをみるまでもなく明らかである。日本企業のPBRの低さは稼ぐ力の弱さにあるとされるが、加えて、「目に見えない資産」への過少投資や説明不足によって、成長期待がなかなか高まらない事例もよく見かける。人的資産などサステナビリティ経営の要素を多く含む「目に見えない資産」に対する中長期的視点からの投資を基盤とした価値創造経営への期待が高まっているのはけだし当然の流れである。
価値創造の源泉たるこれら二つの資産に影響を与える事象がリスクである。リスクへの対応戦略、並びに、二つの資産を活かすことから生まれる機会を、人を基軸とする価値創造ストーリーに組み込み、取締役会で建設的な議論を徹底することが望まれる。この価値創造ストーリーの成功要因を明らかにし、実効性あるオーバーサイトを継続していくことがガバナンスの本質である。
プロティビティLLC シニアマネージングディレクタ
神林比洋雄