TALK & TALK:冨山会長が聞く~コーポレートガバナンスの最前線 太田洋×冨山和彦

TALK & TALK:冨山会長が聞く~コーポレートガバナンスの最前線 太田洋×冨山和彦

2024年5月20日

太田洋(西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 パートナー弁護士)
冨山和彦(日本取締役協会 会長)

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.15 - 2024年4月号 掲載 ]

企業価値を高める本質的な買収とは

冨山和彦日本取締役協会会長がガバナンス改革の最前線に立つ有識者を直撃インタビューするシリーズ企画。今回のゲストは西村あさひ法律事務所のパートナー弁護士の太田洋さんです。日本経済新聞社が毎年発表する「企業が選ぶ弁護士ランキング」の企業法務全般部門で2年連続トップを獲得した太田さんは、買収防衛などで多くの実績を持つ法律家ですが、一方で企業買収をめぐる日本の特異性に違和感を抱いており、企業価値を高めるための本質的な買収のあり方をもっと議論すべきだと強調しています。

企業買収のベストプラクティスを

冨山 岩波新書の太田先生著作がベストセラーになっており、読んだ会員も多いと思います。アクティビストを解説する新書を、一般向けに著わすことになぜ挑もうと思われたのですか。

太田 書籍の前書きにも書きましたが、アクティビストの現象面についての報道は、ニッポン放送事件のあたりからよくありました。しかしその背景にある、それぞれの国の法制度や社会経済的な状況は、アメリカ、日本、EUではかなり違います。その違いが十分理解されないままに現象面だけ捉えて、何となくの印象論で議論がなされています。日本は法制度としては株主の権利が十分に強いのですが、今までは持ち合いとか、国内の機関投資家が経済合理性に基づいた判断をしなかったことなどが、これまで日本でアクティビズムがそこまで活発でなかった真の原因であったと思います。要するにピントがずれた議論が多い。例えばGAFAMはいわゆる種類株式を使い、デュアル・クラス・ストラクチャーでもう絶対に買収されない。ガバナンスは非常に悪いが、技術革新が進んで成長していて、種類株式をうまく使って長期的な視野に立った経営を行って、イノベーションを起こしています。それを「アメリカはガバナンスがいいから成長している」というような、単純な捉え方をしています。そうではなくて、アメリカにもいろいろあるとか、法制度も含めて全体をカバーして説明する書籍がないことがかねがね気になっていたので、ないのであれば自分で書くしかないと書き始めたのが動機です。

冨山 意外とみんなちゃんと勉強していませんよね。アメリカはウォールストリートに支配されている金融株主主権資本主義だとの意見をよく聞きますが、GAFAMはそこに属していない。つまり米国経済の成長を牽引したのは、貪欲金融資本主義じゃないわけです。日本経済が成長しなくなったのは、貪欲な金融資本主義を変に取り入れたからと言いますが、それは別問題でしょう。

太田 別問題ですね。

冨山 日本の経済人は、22、23歳以降勉強していないので、こういうある種の良質な教養本はすごく大事だと思います。制度の違いなど、特に日本で議論するときは、どこに注意しなくてはいけないですか。

太田 簡単に言うと、日本ではスチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの効果もあってアクティビズムはかなり活発化していて、アクティビスト・ファンドの活躍が目立ちますが、逆に、現状では王道を行くきちんとした買収がありません。メインストリームで、ストラテジック・バイヤーが、本当に企業価値を高める買収をするならばどういった形で本来やるべきかが、これまであまり議論されてきませんでした。

ストラテジック・バイヤーによる「王道」の買収の場合、まず買収提案者側が、「こういう企業価値向上策を持っているので、買収したらいい形になる」という情報をきちんと出す。次に、一般の株主から見てそれがいい提案なのであれば、今度は対象会社側が積極的に情報を出して、本当にシナジーが効くのかどうかを説明する。違うのであれば、違うということを説明する責任を果たす。そういう「王道」のあり方が、アメリカやEUでは既に定着しています。

アメリカは、市場のダイナミズムやプラクティスがあって発展しました。EUやイギリスではパネルなどがそこをうまく差配してやっています。日本はパネルがなく、当局もそのような機能を果たすことは期待されていない一方で、法制度は比較的アメリカのほうに近い。つまりアメリカと同様に市場のプラクティスでやっていかなくてはいけない。しかし何がベストプラクティスなのか十分理解されないままです。

冨山 パネルとは何ですか。

太田 各国に歴史的、社会経済的な背景があることを示す典型例だと思います。イギリスのシティはロンドンの金融街ですが、ある意味すごくギルドのような村社会です。ベストプラクティスが何かは、みんなが共通の理解の下に動いています。パネルという、元々法律に根拠も何もない任意のシティの実力者が集う団体が差配をしていてベストプラクティスを無視する人、ルールを破る人は「出禁」にして排除する。フェアじゃないやり方をする人は、永久に資本市場から出禁にするというもので、すごく英国的なものです。インサイダー取引規制その他の資本市場のルールを破った人が市場でプレイヤーとなることは英国では全く考えられません。

冨山 私も日本の場合は、マーケット型ダイナミズムのアメリカ型でいくのだと思います。紛争解決の裁判を通じて、ベストプラクティスは示されますか。

太田 最終的にはそういうことになるでしょう。ニッポン放送事件、ブルドックソース事件以来の裁判所の判断が、それを形成していると思います。買収や経営支配権の争奪を巡る問題は非常に個別性が強く、一般論だけでは語れない部分が多いので、個別の事案についての裁判でルールを形成していくのがよいと考えます。抽象的な思考でルールづくりをしても、必ず何か抜け穴があります。個別の事案の積み重ねで、ルールが徐々にできていくのが適していると思います。

冨山 実際、株主総会で、取締役の指名は昔より遥かにホットイシューになってきましたよね。昔のどうでもいいような雰囲気が、だんだんアメリカに寄ってきている感じがします。

太田 肌感覚として、2014、2015年のスチュワードシップ・コードとガバナンス・コードの両輪の策定以降では、日本も相当そこは変わってきたと思います。

冨山 日本の会社法は、資本民主主義議院内閣制です。年に1回の株主総会、いわば総選挙で取締役が選任される。一番根幹なので、もっと真面目にやるべきだと考えます。

太田 あとは、選ばれる人、特に独立社外取締役の質の問題や真に独立社外取締役としての役割を果たすことができる人材の確保がこれから大事になります。

衝撃的だったヤマハ社長の決断

冨山 よいアクティビズムと、よくないアクティビズムの2つの現状認識はいかがですか。

太田 日本は資本市場のプラクティス全体がまだまだ欧米に追いついていません。特に国内機関投資家による議決権行使の判断は、自らの議決権行使基準の形式的な適用に余りにも縛られていて硬直的過ぎると感じます。金融庁も繰り返し強調しているところですが、個別具体的かつ実質的な判断がされなければならないと思います。日本の国内機関投資は、形式的・機械的な判断に縛られています。スチュワードシップ・コードの本来の趣旨は、一応の基準は明確化した上で、個別の事案では具体的な事情を考慮して自らに資金運用を任せてくれた投資家にとって最善の判断をすべきというものです。例えば米国のブラックロックやバンガードは、個別の会社をよく勉強して、議決権行使も個別に判断をしています。当協会の委員会でも、経営者の方と話をしますと、日本の国内機関投資家と対話をしても、「うちの基準はこうなっています」という説明をされるばかりで、実質的な対話にならないとよく伺います。これでは「基準の押し付け」であって、企業価値を高めるためにはどうすればよいかを共に考える「対話」になっていないと思います。

あとは全体的にルールの罰則やその執行(エンフォースメント)が日本は弱いのが特徴です。アメリカは、ルールを守らない人にはきちんと制裁を科して、フェアなルールの中で市場のダイナミズムが働いている。米国証券取引委員会(SEC)に比べると、日本の証券取引等監視委員会(SESC)は、人員も予算もないし、裁判所は余りにも「精密司法」に過ぎる。日本の裁判所は立証に余りに高い水準を求めすぎるため、監督当局も「これなら絶対に有罪にできる」という本当に悪い人しか捕まえない。一罰百戒みたいに、何件か代表的なケースを摘発するだけで、十分に罰則を効かせられていないと思います。2000年代に入って、護送船団方式が崩れ、事前予防型規制から事後責任型規制に転換したはずなのに、ルール違反をした人に事後的に責任を取らせるという部分が十分に機能していないことは問題です。ルールを破った人への制裁なき市場だと単なる自由放任になってしまいます。全体がうまく回るようにするために、皆が習熟していることは必要だと思います。

冨山 共通の議論、地平がないと難しいでしょうね。

太田 日本はガバナンス・コードができてから、7、8年で一気にここまでもってきた。それはすごいことなのですが、まだまだ実務が十分には追いついてないと感じます。形はまあまあできてきた。それをうまく回すための「質」が十分ではない。ベストプラクティスを肌感覚で皆が理解してない。ここが問題ですね。

冨山 何かと根深いと思いますね。ガバナンス・コード作成の議論の中でも、最初は経済団体の人たちが「誰もコンプライできない」と言っていました。でも作ったら、いきなり90%コンプライしている。もう異常ですよ。

太田 日本社会の精神風土の問題だと思います。お上の言うことにはできるだけ従おう、みたいな。逆に言うと、エクスプレインする、説明責任を果たすということをよく理解してない社会なのかもしれません。説明責任から逃れるほうが楽なので、そちらに流れてしまっている側面は相当にあると思います。

冨山 先ほどのGAFAMなんてまったくアウトで、ガバナンス・コード的には「俺たちに文句があるのか」と正々堂々とやっている。ああいう論調も日本でも出てきてほしいなと、僕は思っています。

太田 いろいろな要素が絡み合っているでしょうが、メディアの責任もあると思います。新聞記事も、例えば「女性取締役を入れている会社は何%」みたいな単純な議論だけをする。一つの目安としては有用だと思いますが、目的になってしまっています。「取締役会が多様化すると、経営にいろいろな観点が取り入れられて成長につながります」ということが、出発点のはずです。にもかかわらず、そもそも論が抜け落ち、ただ形だけを入れて体裁だけを整える。日本はメディアも含めて本質を考えずにまず形から入るという思考が強すぎるのだと思います。

冨山 会社も取締役会も機関投資家もみんな、担い手に少し未成熟なとこがあるわけじゃないですか。ある種アクティビズム的な市場を使ったダイナミズムで淘汰再編をすることを、当然悪い連中は狙う。このへん、どのように見ておられますか。

太田 これはもう我々が大変苦労しているところで、今は何とか工夫しながら対処しているというところです。今後ますます資金が流入してきて、社会的にも影響が大きい、さらに大規模の企業がターゲットになってくると思います。

冨山 脅威は増している。企業としてどう防衛するべきですか。

太田 プライム市場上場会社の中で、例えばIRミーティングを1度もやったことがない会社も、実は結構あります。当然のことながらそういう企業は狙われ、大ごとになったりします。キャッシュアロケーションも真剣に考えるべき時期に来ています。自己資本が厚くなっているならば、それを使って研究開発投資や思い切った設備投資など攻めの投資ができる。でも日本企業はなかなかしない。研究開発投資すら欧米企業と比較して伸びていない。海外M&Aにも尻込みする。今までの惰性だけで来ている部分が、かなりあるように思います。

冨山 根源的な問題として、昭和な日本的経営そのものじゃないですか。企業内の同質性が高すぎて、新しいものに対応ができない。根本的に転換していかないと、本質的な問いに答えられない。資本市場から圧力がかかり、その圧力を梃に会社を変革していく。ソニーなどもそれに近い展開で、今や誰も電機メーカーだと思ってない。ああいうケースが増えてくるといいですよね。

太田 全く同感です。

冨山 変革できるかできないは、経営者かボードのどちらの問題でしょうか。

太田 日本取締役協会コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤーの審査でいつも受賞候補企業に対して行っている社長インタビューをしていてつくづく思ったのは、傑出したリーダーシップがあるトップがいると会社はすごく変わるということです。やはりトップの影響が大きい。リーダーが「自分はこうしよう」と思って腹を決めてやると、すごく劇的に変わります。

冨山 みんな「言葉」を持っていますよね。

太田 法律家として衝撃的だったのは、ヤマハの中田卓也社長の「執行と監督を分離しなければと思いました。執行する人は、全員代表訴訟にさらされるべきだと思ったから、執行役員を代表訴訟にさらすために、執行役が代表訴訟の対象となる指名委員会等設置会社に移行しました」というのは、本当にすごい発想だと思いました。

冨山 あれはすごい。

太田 それで見事にあれだけの改革をされ、会社の稼ぐ力を劇的に引き上げています。経営トップのリーダーシップには凄く大きな力があるんだなとしみじみ思いました。

冨山 日本的リーダーシップは、従業員の気持ちや経営幹部に寄り添って、外部の圧力を遮断するのがまだ多数派です。外部の競争相手や株主などにさらすことにより、鍛えていこうとする経営者はまだ少ない気がします。

太田 そうですね。

冨山 日立やソニーも、むしろさらしちゃおうという感じの経営改革をやったじゃないですか。

太田 日立は2009年の7000億円の赤字が大きかったですよね。大きく変わっていくには、何か外部の刺激がないと難しいところはありますね。そういう意味では、モデルケースが増えてくるのは大事だと思います。今までは「王道」の買収のモデルケースがあまりにもなかったので、ニデックのケースはすごくモデル的で良かったと思います。

冨山 逆にね。

太田 だから、今回のニデックみたいな事例が出てくると、その後、第一生命のベネフィット・ワンみたいな事例も出てくる。そうすると、みんなわかってきます。

誰に対して「敵対的」なのか

冨山 この本にある、「誰に対して敵対的か」という命題は、すごく本質的な問いのような気がします。産業再生機構で乗り込んだときも、敵対的買収者のような感じに受けとめられました。

太田 そうですね。

冨山 99.9%、経営者は最初反対です。自分たちがクビになるから反対なのですが、出てくる理屈は、従業員や取引先を人質に「あいつらはハゲタカもどきだ」と言う。本当はほとんど経営陣の保身なのです。日本の経営者は、自分の保身と会社の防衛が一体化してしまう。みんな終身年功サラリーマンですから。この太田先生の問いは、日本の経営者や従業員もちゃんと自問したほうがいい問いだなと思って、僕に響きました。要するに、敵対的と言っていますが、一体誰への問いかということですね。

太田 アメリカも最初から今のように綺麗にできていたわけじゃなく、80年代の敵対的買収の時代を経て、90年代後半から世紀の変わり目にかけてようやくそこまで辿り着いています。

冨山 ERISA法が入って以降の話ですね。

太田 いい買収も悪い買収もあって、KKRによってLBOを用いて買収されたRJRナビスコなどは借金返済のために解体されてしまい、今は見る影もない。当時から思えば、だんだん洗練されてきました。いまやKKRもハンズ・オンで企業価値を高めるPEファンドに生まれ変わっています。そういう経験を日本もこれから積んでいく過程段階なんだろうとは思います。

冨山 協会の皆さんには太田先生の著書を必ず読んでほしいなと思っています。

太田 ありがとうございます(笑)。

冨山 テクニカルな議論になりますが、不健全なアクティビズムに対抗していくために、何をしていったらいいんでしょうか。

太田 本質的にはやはり株価を上げるのが最大の防衛策ですね。そこは変わっていません。株価を上げるには、資本効率を上げていくのが一番手っ取り早い。それをキャピタル・アロケーションを含めてきちんと詰めていくというのが本来的な姿ですね。資本市場に向き合った上で、多くの穏健な機関投資家が望むことを地道にやり、IR等を改善していくのが最も手がつけやすい方法ではあります。

冨山 穏健な投資家にできれば保有してもらうとか。

太田 そうですね。

冨山 経験的に言うと、資本市場全体では、実は圧倒的にそちらのほうが機関投資家の多数派ですよね。バックは年金基金等で、極めて長期保有です。この会社と思ったらずっとそこをフォローして、株が高くなったら売り、安いなと思ったら買うことを継続する。

太田 アクティビストも千差万別で、イギリス系は、バックがイギリスの年金基金とかなので、割とそういう傾向が強いです。ヒット・エンド・ランの短期的利益だけを狙うアクティビストではなく、そういう機関投資家にいかに長く持ってもらうかということだと思いますけどね。

冨山 いわゆる「買収防衛策」はどういうふうに捉えますか。

太田 本にも書いたのですが、防衛策はあくまで時間を稼いで買収者と交渉するためのツールでしかありません。事業会社は当然ながら業績の浮き沈みがありますが、買収者やアクティビストは最も仕掛けやすいタイミングで仕掛けてくるわけです。例えば、コロナとかで業績がガクッと落ちて株価が割安になった、そういうときに仕掛けてくるわけで、そういった場合に、何とか時間を稼いで、その間に本質的な企業価値の向上策を打ち出して、機関投資家の支持を集めていくためのツールとして、利用すべき場合はあると思います。要は、時間軸や交渉のイニシアチヴを取り戻すための手段だと思います。

冨山 決して悪いことじゃない。

太田 そう思います。場合に応じて、使うべき局面はあるのだと思います。ただ、買収「防衛」策という言葉が悪い。

それで未来永劫会社が守れるような買収防衛策は、100%ありません。要するに、時間をいかに稼ぐかであって、その間何も変わらなかったら結局は守り切れるものではありません。時間を稼いで、現経営陣の下で経営をしていった方が中長期的には企業価値は向上していくんだという施策を説得力ある形で示して、会社だけでなく中長期保有の株主を含めて皆にとってハッピーな形にしていくためのツールとして使うものだと思います。

胆力が求められる社外取締役

冨山 そういう会社の命運に関わる、極めて本質的な問題について、独立社外取締役の役割はどうお考えですか。

太田 独立社外取締役の役割は、すごく大きいと思います。時間を稼いでいる間にこの会社が本当にきちんと対応してくれるか否かは、機関投資家の側から見ると、独立社外取締役がちゃんと動いてくれると信じられるか否かによります。  また、独立社外取締役は、会社のことを思い、ベストな行動するのが大事で、自分の評価や、ましてや自分の報酬だけを気にする人はふさわしくありません。本当によく申し上げるのですが、有事になった時に自分の評判などを気にせずに端的にやるべきことができる胆力がある人はすごく大事です。

冨山 普段言わなくても、いざというときに社長のクビすらも平気で言える人ですね。胆力のある人をちゃんと選ぶ見識が、経営陣に必要になります。さらにはそこで社外取締役や指名委員会がイニシアティブを持つべきです。当協会としても、胆力のある独立社外取締役を生み出していかなければならないですね。

太田 実は、今のところが最後に語りたかったところなのです。最近いろいろな会社にアクティビストが入ってきて、そういう局面でさまざまなボードと相対することがあります。見識があるだけでなく、胆力のある独立社外取締役がいる会社は、本当に恵まれています。アクティビストにいかに対抗できるかは、そういう人がいるかどうかによると思います。どういうCEOを選ぶかと同様に、今後どういう独立社外取締役を選ぶかも本当に重要になります。見栄えや肩書きではなく、いざというときに会社のためにリスクを背負って行動できる独立社外取締役を選ぶことは会社の運命を左右するといっても過言ではありません。

冨山 CEOのサクセッションと比較して、社外取締役のサクセッションは意外といい加減です。会社の命運を決め重要な決定をとれる人が、1人でもいれば何とかなります。いかに確保するかとの議論は、意外と今までされていません。

太田 そうですね。そういう意味で、筆頭社外取締役をどう選ぶかはすごく重要です。

冨山 筆頭社外取締役は、今後の協会でのテーマにしてもいいかもしれないですね。

太田 イギリスでは筆頭社外取締役はイコール議長で、イコール株主との対話の窓口になります。日本でいきなりそこまでは無理だと思いますが。ただ、株主に対しても堂々と自分の言葉で意見を言える筆頭社外取締役がいれば、機関投資家も安心します。

冨山 本日はありがとうございました。

太田洋氏

太田洋 Yo Ota
日本取締役協会 コーポレートガバナンス委員会副委員長
西村あさひ法律事務所・外国法共同事業パートナー 弁護士
ニューヨーク州弁護士
クロスボーダー案件を含むM&A取引、コーポレートガバナンスを中心に、企業法務全般を幅広く手がけ、日本経済新聞社による「2023年に活躍した弁護士ランキング」では、企業法務総合、及びM&A・企業再編の各分野で共に1位に輝く。会社法、金融商品取引法、租税法、個人情報保護法等を巡る最先端の問題についての研究・執筆活動に特に力を入れており、『新株発行・自己株処分ハンドブック』『新株予約権ハンドブック(第5版)』『M&A・企業組織再編のスキームと税務(第4版)』(いずれも商事法務)など、編著者として編集・執筆した書籍・論文多数。近著『敵対的買収とアクティビスト』(岩波新書)は、丸善・丸の内本店などビジネス書店での販売ランキング1位を記録して重版中。

冨山和彦氏

冨山和彦 Kazuhiko Toyama
日本取締役協会 会長
経営共創基盤 IGPIグループ 会長
日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役社長
ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクションを経て、産業再生機構設立時に参画。解散後、経営共創基盤(IGPI)を設立。内閣官房「新しい資本主義実現会議」委員、金融庁・東証「スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」委員ほか政府関係委員多数。著書に『コーポレート・トランスフォーメーション』『社長の条件』『決定版 これがガバナンス経営だ!』他。
東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格

撮影:淺野豊親