2024年6月12日
橘・フクシマ・咲江(G&S Global Advisors Inc. 代表取締役社長)
中島好美(積水ハウス、イオンフィナンシャルサービス 社外取締役)
企業のエグゼクティブとして、ダイバーシティ改革を切り開いてきた世代とその志を継ぐ世代が、率直にその思いや決意を語ります。さらに次世代へのエールも送ります。
これからは「魂」を入れる時期
SAKIE TACHIBANA FUKUSHIMA
ジェンダー以外の多様性にも着目
YOSHIMI NAKAJIMA
私が中島さんの存在を知ったのは、シンガポールでAMEXの社長をされていた時で、その「グローバル人財」として活躍される姿に尊敬の念を持ちました。人生の早い段階でグローバルなリーダーシップの成功体験を積むことはとても大切です。私の場合、女子大や外資系企業でその機会を得ることができました。また両親が常に自分を受け入れてくれた安心感が、自分の自信やアイデンティティの形成に繋がったと思います。私がジェンダーのダイバーシティ(LGBTQ)を意識するようになったのは1970年代にハーバード大学で日本語を教えていた頃からです。コーン・フェリーの米国本社のボードでは初めは女性・アジア人1人だけでしたが、12年間務めました。その後2002年から花王、ソニーを初め日本企業13社で社外取締役を務めましたが、いつも初めは、女性は1人でした。女性登用を促すために、2011~15年には経済同友会の副代表幹事として女性役員比率30%を実現する「経営者の行動宣言」を発表しました。2024年現在20%未満の達成率とはまだ道半ばです。社外女性取締役の第一世代として、ここ20年間日本のガバナンスの変遷を見てきました。政府や東証の方針を日本企業は真面目に実践し、ハード面の「形」はできてきたと思いますが、これからはソフト面の運用で「魂」を入れる時期だと思います。「女性」であることはその人財の個性の一部にすぎず、経験、能力等も含めて全体で評価する必要があり、早く「女性取締役」というカテゴリーが不要になれば良いと考えています。それまでは、第二、第三世代の女性取締役候補で優秀な方々が増えていますので、日本企業ではその有効活用と、グローバル人財の登用も含めて国籍等のダイバーシティ促進が不可欠です。
私にとって咲江さんは、この方がいるから自分たちも進むことができるし、後輩も引っ張っていけると思える存在です。思えば自分のリベラルな考え方は家庭の教育によるものも大きく、「女の子だからこうしなさい」と言われることなく、女性として特別に扱われることに「なぜ」と素直に疑問を持つことができました。その経験からダイバーシティをもっと加速させなくてはいけないと、まさに身体を張って行動してきました。2011年シンガポールでAMEXの社長に就任したことは、日本のみならずアジアの女性に、「可能性は誰にでもある」というD&Iのメッセージを発信できました。私は、女性の社外取締役として第二世代にあたり、2017年の初就任当時は、就任先企業や社会には外資系女性経営者へのアンコンシャスバイアスがありました。私たち世代は、グラス(ガラス)ではなく、アイアン・シーリング(鉄の天井)があり、先が見えず悩んで寄道もしました。今は天井といってもグラスで、先を見ることも破ることもできる時代です。先人の努力の積み重ねに感謝し、自信をもって活躍してほしいと思います。一つの組織にクリティカルマスを作るために30%の目標設定がある、その意味を理解して行動する組織は進化します。梯子を外すことなく、長期目線で取り組むべき課題であり、その重要性を理解する経営者が増えてきました。コーポレートガバナンスと同様、形が整ってから真の姿に移行する点で、今いい時期に差し掛かっていると思います。多様性がもたらす効果を理解し、実践できる時代です。ジェンダー以外の多様性にも目を向け、それを楽しめる組織文化を作る担い手として、活躍を期待しています。
橘・フクシマ・咲江 SAKIE TACHIBANA FUKUSHIMA
日本取締役協会副会長、
G&S Global Advisors Inc. 代表取締役社長
ウシオ電機、九州電力、あおぞら銀行社外取締役
ブラックストン・インターナショナル、ベイン・アンド・カンパニーを経て、コーン・フェリー・インターナショナル日本代表、米国本社取締役、アジア・パシフィック地域最高顧問を歴任。2010年より現職。米国企業に加えて、2002年から日本企業13社の社外取締役として、コーポレートガバナンスの領域でも活躍。エグゼクティブ・サーチの人財(資産としての人材)コンサルタントとして、多様なグローバル人財の育成・登用に尽力。
中島好美 YOSHIMI NAKAJIMA
積水ハウス、イオンフィナンシャルサービス 社外取締役
安田信託銀行(現みずほ信託銀行)、シティバンク、ソシエテジェネラル証券での要職を経て、2002年アメリカン・エキスプレス・インターナショナル Inc. 入社、個人事業部門担当副社長を経て、2011年にシンガポールのカントリー・マネージャー(社長)に就任し、アジアの女性活躍向上にも貢献。退任後、日本企業の社外取締役として、国際企業の経営経験を活かし活躍中。
撮影:小泉 賢一郎