2024年10月16日
宮井真千子(いすゞ自動車株式会社、積水化学工業株式会社 社外取締役)
安田結子(株式会社ボードアドバイザーズ 取締役副社長)
企業のエグゼクティブとして、ダイバーシティ改革を切り開いてきた世代が、率直にその思いや決意を語ります。さらに次世代へのエールも送ります。
困難は「マイノリティの流儀」で乗り越えて
MACHIKO MIYAI
いつでも人格を磨くことを大切に
YUKO YASUDA
2011年、パナソニックで初めての女性役員に就任しました。2000年、中村邦夫社長(当時)の号令によりスタートした女性活躍推進で、女性初の研究所長、女性初の事業部長と、多くの機会を与えて頂き、鍛えられたと思っています。2000年当時は、女性の管理職はまだ少ない時代。男性ばかりの意思決定の現場に不自然さを感じてきました。多くの女性たちがそう思っていたと思います。2014年にパナソニックの役員を退任しましたが、責任ある立場にたってますます仕事の面白さに引き込まれていきました。
森永製菓では、4年間社外取締役を務めた後、執行に入るという少し変わったキャリアを選びました。社外取締役として耳の痛いことをいいましたので、いざ執行に入ったら、みんな構えてしまって(笑)。ただ、社外取締役を経験し、会社全体の経営課題を理解したうえで、執行に入ったことはよかったと思っています。2014年、社外取締役に就任する際に、パナソニックの元役員の方から「その会社を好きになりなさい。好きになればなるほどよくしたいと思うから」といわれまして、ハッとしました。社外取締役として心がけているのは、まずはその会社を好きになること。そのうえで、会社を理解し、社会の出来事にも注意を払い有効な情報収集を行いながら監督の立場としてその会社に貢献できればと思っています。
この10年を振り返ると、女性役員の増加など大きな変化があった気がします。ただ、管理職になりたがらない女性も多いと聞きます。国や社会として手当しないと、いい流れは続かないと心配しています。常に女性はマイノリティでしたのでその経験から私なりの流儀があります。媚びを売るのではなくて、自分が考えていることを周囲に伝え、理解者を増やすことです。女性がマイノリティでいる間は、男性よりもっとコミュニケーションする、そういったマメさも必要と思います。
宮井さんとのご縁は、ある男性経営者の方から素晴らしい人がいると紹介されたのが最初だったと記憶しています。このように、男性の経営者が優秀な女性を引っ張り上げることは重要です。私も最初に社外取締役に就任する時、「肩に力入れなくていいからやってみなさい」といわれ、経営者の懐の深さを感じ、周りをがっかりさせないように貢献したいと思いました。
2000年初頭から企業様の社外取締役招聘支援を行っておりますが、近年では長期プランでボートサクセッションを考えるなど、だいぶ変わっております。女性であればだれでもいい、というのではなく、社外取締役としての貢献を期待するようになってきております。一方で、社外取締役に就任したい女性候補者は増えていますが、業務執行での経験や専門知見を持たない方でもいきなり社外取締役になれると錯覚する方もいます。男性の経営経験者と比べると、取締役会での発言も明らかに質が異なりますので、一過性のブームに終わらないかとの危機感があります。社外取締役としていかに学び続けられるか。社外取締役の第一人者でもある、岩田喜美枝さんが「取締役会でいい質問をするため、できるだけ勉強していく」とおっしゃっています。取締役会では常に「この発言は企業価値を向上させるのか」を意識する、その原点を忘れないことです。執行の会議も傍聴し、工場等の現場に足を運び、会社の風土やカルチャーも一緒に学びたいと思います。
役員になる方へのアドバイスは、経営課題の視点で執行を考えること。具体的なファクトを持った説得力は、自分も身に着けたいと思います。また社外取締役がゴールになってはいけません。今の自分に与えられている仕事の中で結果を出せば、必ず誰かが見ています。そしてネットワークを広げ、自分を引き上げてくれる方と知り合うことです。最終的には人柄です。執行側の方がこの社外取締役から耳の痛いことをいわれても聞く耳を持てるか、思いやりのある発言できるか。宮井さんを見てわかるように人格を磨くことは大切です。
宮井真千子 MACHIKO MIYAI
いすゞ自動車株式会社、積水化学工業株式会社 社外取締役
松下電器産業(現パナソニック)にて、生活者の視点、女性の視点を大切に数々の新商品を生み出し市場を切り開く。くらし研究所の所長などを経て、2011年同社初の女性役員に就任。2014年に退任後は、各社の社外取締役を経て、2018年から2024年6月まで森永製菓 取締役常務執行役員。日経ウーマン「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2007」総合2位、関西財界セミナー賞2012輝く女性賞受賞。
安田結子 YUKO YASUDA
株式会社ボードアドバイザーズ 取締役副社長
日本IBM、ブーズ・アレン・ハミルトン(現PwC Strategy&)を経て、ラッセル・レイノルズへ入社後、テクノロジー・セクターにおけるアジアパシフィックの責任者、日本支社長、本社エグゼクティブコミッティーメンバーを歴任。2020年より現職。日本企業の取締役会と経営者に対する各種支援に従事。エーザイ、村田製作所 社外取締役。経済同友会幹事。
撮影:小泉 賢一郎