TALK & TALK:冨山会長が聞く~コーポレートガバナンスの最前線 東原敏昭×冨山和彦

TALK & TALK:冨山会長が聞く~コーポレートガバナンスの最前線 東原敏昭×冨山和彦

2025年1月16日

東原敏昭(日立製作所 取締役会長 代表執行役)
冨山和彦(日本取締役協会 会長)

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.17 - 2024年12月号 掲載 ]

日立が見据える「プロアクティブガバナンス」

冨山和彦日本取締役協会会長がガバナンス改革の最前線に立つ有識者を直撃インタビューするシリーズ企画「TALK&TALK」。今回のゲストは日立製作所の東原敏昭会長です。過去最大の赤字転落という経営危機をバネに大胆な事業構造改革を断行し、今では世界を舞台にした先進的なガバナンス経営で知られています。その構造改革を率いてきた東原会長は、将来を見据えて「受け身ではなく、ステークホルダーを引き入れて企業価値を高める、プロアクティブ(能動的)なガバナンスを構築する」と意気込みを語っています。

大企業病を構造改革で克服

冨山 本日はよろしくお願いします。最初に東原さんには日立の経営危機はどのように映りましたか。

東原 2009年3月期に7873億円の赤字で、1日に21億円以上を赤字で垂れ流す状況でした。川村さんが戻り業績をV字回復させた後中西さんにバトンタッチし、中西さんが社会イノベーション事業を進められました。2014年4月1日以降、中西さんが会長兼CEO、私が社長兼COOという体制で2年間進めました。専務から社長になった私にとって、この2年はグループ全体をよく理解するよい機会でした。

冨山 その前の専務時代はどういうご担当でしたか。

東原 社会インフラの社内カンパニーのトップでした。実は、2009年3月期の十数年前から、日立は既に数千億円の赤字を計上していました。上場子会社が22社あり、子会社が稼いで日立本体は大赤字という状況が十数年続きました。本質的にそこを直さないと駄目だと私は感じました。終身雇用と、自分から改革しようとしない日本人の気質、その二つが相まって当社は大企業病となり、改革を好まない体制になっていたのです。2016年に一回全部壊す、スクラップアンドビルドをして、10年経ち今があります。

冨山 それは東原さんご自身で決断されたのですか。

東原 はい。当時社内カンパニーは9社ありその多くが売上1兆円以上だったのですが、情報がCEOのところに上がってきませんでした。一回これを全部壊して、より小さなビジネスユニットに変え、それを社長兼CEOが全部みるというかたちを作りました。透明性を確保した上で、上場子会社8社を含めた資産を売却する一方、世界ナンバーワンをめざす大型買収を進める、いわゆるグループの再編を実行してきました。スイスのABB社のパワーグリッド部門、米国のデジタル企業であるGlobalLogic、そしてフランスのタレス社の鉄道信号事業を買収したのですが、これによりグローバルナンバーワンをめざして戦えるかたちを整えました。

冨山 どのように進めたのですか。

東原 トップダウンです。大改革を断行する時には、説明よりも結果が大切なことがあります。ハンズオンで3年間はやりました。疲れますよ。一方で、改革が軌道に乗ってくると、今度はボトムアップが大切です。

冨山 CEOの役割は状況によって変わりますか。

東原 川村さんは「社長機関説」、つまり社長も会社のほかのポストと同じ一定の役割を割り振られた「機関」であり、時期や経営課題に応じて、社長を選んでいけばいいと唱えられました。私の時はドロドロだったので、ハンズオンでやる人間が望ましかったのだと思いますが、今はボトムアップを推進する人がよいと思います。タイミングごとに、社長やリーダーを選べばいい。

冨山 選任にも結構手数がかかりますね。

東原 ガバナンスという言葉は、リアクティブに聞こえ、能動的、プロアクティブには聞こえない。しかし、日立のガバナンスは、資本市場や従業員も含めた経営のステークホルダーと、どのように将来のよい形を作っていくかをめざす能動的な活動です。当社の財務的指標はよいステータスになったため、現在は人財の育成に力を入れているという認識です。

グローバル企業に向け社外取締役を選任

冨山 会社が今どういうフェーズにあり、今後どういう人が求められるかは、取締役会の議論になりますか。

東原 はい。今そこを一生懸命、取締役会で議論しています。

冨山 御社の場合、海外企業のCEOなど、すごくいいメンバーですよね。

東原 海外視点が足りないものだから、そこに意見をいただくのが大きいのです。海外ベースのグローバル企業になる目標を前提に、どういう取締役がよいか、から議論がスタートし今日のメンバーに至っています。今は取締役12名のうち9名が社外。会長と社長は執行が付いていて、執行を外れたOBが1名、残りの9名は社外で、5名が外国人で4名が日本人という構成です。指名委員会等設置会社で、指名・報酬・監査の3委員会の委員長は社外取締役です。独立性を保つために取締役会の議長も社外取締役にしています。

冨山 社外の人を探すのが難しいとの議論がよくあります。

東原 指名委員会でロングリスト、ショートリストを多方面からもらって絞り込みます。最終的に指名委員会の全メンバーで面談をして、全員がOKといったら入ってもらいます。手間と1、2年の時間がかかります。大事なのは時代の変化によってメンバーが変わること。例えば2020年頃はデジタルトランスフォーメーション事業をリードした経験を持つ人が足りなかったため、社長の私からお願いして、指名委員会が1年かけて探して、IT系の2名を入れました。

冨山 実務は指名委員会主導になっているのですね。

東原 指名委員会主導です。全員一致だから結構時間がかかる。ローテーションがあり社外取締役も最大10年で代わっていきます。日立を理解するのに2、3年はかかるので、レベルを保つためには上手く回さないといけません。

冨山 各社社外取締役の重要性に気がつき始め、獲得競争が厳しくなる気がします。

東原 私どもはグローバルで、世界中でコンサルタントも使いながら探す仕組みとしていますが、大きな企業のCEO経験者は引く手あまたで難しく、かつ女性というと更に難しいです。

冨山 企業間でのガバナンスの競争力みたいになりますよね。

東原 なるでしょうね。

海外が6割を占める売り上げと人材

冨山 人的資本投資についてのお考えをお聞かせくださいますか。

東原 マクロ的には、これからシェアホルダー資本主義からステークホルダー資本主義になりますが、まだ言葉だけが先行しています。ステークホルダー、例えば従業員のエンカレッジメントを含めて、人的資本投資をどのように進めていけばよいかを議論するのは、 取締役会の責任でもあります。例えば日立では、将来の幹部候補として約500人のタレントプールを作り教育を行っています。これは私が社長だった2016年度から始めたのですが、毎年50~60名ずつ選び、3年間のOFF-JTや勉強をさせながら、取締役の前でプレゼンをさせて、幹部候補者を絞り込んでいく。さらに指名委員会で、将来のCEOを誰にするか、候補者をどんどん絞ります。

冨山 どんな構成ですか。

東原 ABB社のパワーグリッド部門やGlobalLogicを買収した時期から、相当海外の従業員が増えてきました。現在27万人の従業員のうちの約6割が海外です。

冨山 近い将来に日本人以外が社長になる可能性もありますか。

東原 将来には可能性があります。日本には「日本人の社長でないと」という考えがまだありますので、国が変わる必要があるのかもしれませんね。

冨山 幹部職はいかがですか。

東原 今の課題認識は、 日本の東京からの指示が多すぎること。これは執行の体制としてはあまりよろしくないため、各事業の本社機能を移すことも考えています。鉄道事業はロンドン、デジタル事業はサンタクララなど、日立の事業としてそれぞれホットな地域に執行体制を分散する。将来はそういう形になるでしょう。

冨山 賃金体系などもかなりグローバル化しているのですか。

東原 ジョブ型でポストによって賃金体系を決めています。働く場所によって物価は違うので、国別アジャストメントをします。

冨山 魅力的な人材を引きつけることと、ガバナンスの関係をどう考えますか。

東原 日立を魅力的にしてきているつもりですが、20代、30代の人は、辞める方も結構います。アルムナイ・ネットワークをつくり、日立を辞めて幅広い経験を積み何年後かに戻ってくることができる仕組みをつくりました。どんどん外の世界に挑戦してもらうことで人財の流動性が高まることはよいことだと考えています。

世界で戦えるかたちができてきたので、グローバルで挑戦したいのであればぜひ日立で、と訴求しています。そういう意味では、取締役会も含めたガバナンス体制も、ビジネスの形態もグローバルになりました。

冨山 一貫していますね。

東原 人財の6割、売り上げの6割が海外となっています。日本人には既にFA制度を設けています。例えば、九州で働いている方が、東京の本社に異動したくても介護の事情があり行けない。そこで所属は日立内の他部門に移りつつ、九州で働き続けるという異動を可能にしました。この制度をグローバルに適用すべく進めています。実現すると、日立グループに対するロイヤリティやジョブセキュリティが担保され、思い切って仕事ができるのではと思います。

冨山 人的資本経営はそこまでやらないと、うまく回らないですよね。

東原 投資家はよく、キャピタルアロケーションを提示せよといいます。私はもう一つ、労働分配率で給与を上げるのみならず、従業員のリカレント教育などにこれだけ投資しているという、人的資本投資のキャピタルアロケーションも出したらよいと思います。人的資本投資をしている企業がもっと評価されるようにならなければ、ESGという言葉だけが先行し企業の取り組みが不透明なままになってしまいます。

冨山 GlobalLogic買収のような、人的資本、無形資産になると、きれいにバランスシートに出てきませんものね。

東原 出てきません。IFRSではのれん償却もできず、無形資産も膨らんでしまいます。

「ジョブ型雇用」で社会を活性化

冨山 世代的な多様性はどういうふうに捉えられていますか。

東原 これから先考えないといけないのは、日本では全世代型社会保障です。これは年齢に関係なく能力に応じて負担することで必要な保障がバランスよく提供されることをめざし、給付は高齢者中心、負担は現役世代中心となっている従来の社会保障の構造を見直すものです。この実現には、高齢者の定義も、最低限70歳にしなければ制度としてもたない。その際に企業側はどう対応すべきかも検討が必要です。

冨山 全部つながっていますよね。

東原 全部問題が一つなのです。70歳や75歳にすることによって、健康年齢が引き上がれば、会社にも社会にもポジティブな効果が生まれると思います。健康年齢は上がり、医療費は下がり、介護費も下がる、全てリンクさせた形を取っていかないといけません。

冨山 従来の年功制は、礼節としての長幼の礼をビジネスの世界に持ち込み、矛盾が起きています。日本の社会改革として、全部つながっている話ですよね。

東原 全部変えないと駄目ですね。年功ではなく、能力があれば若い人でもそのポジションに付ける。ジョブ型の人財マネジメントにして、社会を活性化させる。社内大学である日立アカデミーで実施していますが、リカレント教育は会社の義務としてやらないといけません。アルムナイ・ネットワークで、日立に戻るキャリアパスも設けました。従業員の挑戦に対してよりオープンにすると、日本の産業界に人財の流動性がでます。

社会貢献が企業価値の時代に

冨山 ESGに関してはどういうお考えをお持ちですか。

東原 2040年、2050年に企業はどうなるのかを想像するには、究極はウェルビーイングとプラネタリーバウンダリを考えないといけないと思います。企業の責任として両方きっちり捉えねばならず、バラバラに考えてはいけません。日本は2040年に65歳以上の人口が一番多くなるため、いかに健康年齢を上げるかが大事です。そのためには働くのが、私は一番いいと思います。社会につながりを持って貢献していることが、ウェルビーイングのキーになると思います。プラネタリーバウンダリにも近いものがあります。プラスチックごみを拾うことでもいい。環境に対して貢献をするなど、社会の課題を主体的に自分ごととして問題を捉え活動することが、ウェルビーイングにつながると思います。

冨山  間違いなくそうですね。

東原 社会課題を自分ごととして考える主体性、押し付けではない相手への共感力、自分だけ、1社だけでできないことに周りを巻き込む力、この三つをベースに社会に貢献する仕事をどんどんやれる企業体でないといけないのです。企業はそうした環境を提供し、支援する存在でなければいけないと私は考えます。社会にどれだけの貢献をしているかが、企業価値として認められる時代がやがてくると思います。結果的にESGの発展にもつながる。それをリードするのは従業員だと思います。

冨山 取締役会のなかで、今いわれたような議論は共有されていますか。

東原 10年かけて、やっと日立もキャッシュと利益がある程度出るようになりました。これからはESGの議論がもっと盛んになると思います。hand to mouthの状態では、道徳は考えられないですよ。

冨山 そうです。まず稼ぐ力がないと。ESGの話は、超長期投資であり、必ずどこかでかえってきます。

東原  先ほど申し上げた通り、資本市場や従業員も含めた経営のステークホルダーと、どのように将来のよい形を作っていくかをめざす能動的なガバナンスがESGの発展には欠かせません。

冨山 確かにそうですね。

東原 社長兼CEOとして私が経営のバトンを受け取った2016年には営業利益が5%でしたが、今10%近くまでに達しています。最初の3年間はmake more money しかいわなかった。稼げる会社でないと言い訳にしか聞こえないからです。2018年には全社平均で8%になった。そこでマインドを変えて、これからはもっと大きなESGの視点で考えないと社会的にグローバルな企業としては認められないと考え、社会価値・環境価値・経済価値の三つを打ち出していきました。稼いでからでないと投資はできませんから。

冨山 シンプルな真実をわかってない人が多いですよね。

東原 だから6年を分けて、最初の3年は稼ぎ、残りの3年は社会価値、環境価値のESGにシフトしました。

冨山 取締役会は、東原さんのリードについていく感じですか。

東原 私の場合は「押し切った」要素が強いかもしれませんが、トップダウンで進める際によいコメントを頂きました。リーダーに大切なのは三つだと思います。

まず将来日立がどんな企業でありたいかという想像力、次に取締役を説得してでも自分はやり遂げるという実行力、最後に重要なのが傾聴力です。自分への批判でも、朝令暮改といわれても、いい意見は取り入れる。この三つがあれば、そんなに大きくは道を外れません。

私は、GlobalLogic買収時に最後まで反対した取締役、もう退任されている方と、先日お話しする機会がありました。「あなたをリスペクトしています。取締役会で最後まで自分の意見にNOといったのはあなたしかいなかった。本当にありがたかったです」と伝えました。

日本だけ見ていたら将来はない

冨山 今、力を入れられていることは何でしょうか。

東原 一生懸命やろうとしているのは、One Hitachiプロジェクトです。例えば鉄道事業では、車両や信号システムだけでなく、eチケッティングを提供する場合、金融系の決済システムが必要です。そのために各ビジネスユニットが集まって、One Hitachiとしてソリューションを提供する。うまくやるには、それぞれの利害を超えることが大事になります。

このようなプロジェクトに、インセンティブや評価を与えられないかと思っています。複数のビジネスユニットが集まって一つのプロジェクトをつくる場合、最初から利益配分ルールを決めないといけない。そういう制度をグローバルに確立していきたいですね。

冨山 ある種報酬の議論ですね。

東原 日本人に変わってほしいです。業務がジョブディスクリプションを超えたら、もっと給与をくださいと明確にいう文化を日本人は持つべきです。海外では絶対いってきます。

今言っているのは、日本人のリーダーになる人は海外に出て、グローバルに戦えるかたちをつくってほしいということ。海外のマネジメントができる人には、日本に来て日本や日立の文化を学んでほしいと言っています。

パリ・オリンピックで日本は45個メダルをとりましたが、海外に行って戦っている人は強いですよね。強い個をつくるのは海外です。よく、WBCの優勝における栗山監督の話をします。栗山監督が唱えたように、「みんながキャプテン」の気持ちが大事です。

冨山 全員がキャプテンシーを持つということですね。

東原 外国人のように強い意見をいっても、One Hitachiになるときには、自分の理解をちょっと置いて、どうしたらWin-Winとなるかを考えて実現できるチームを形成する。そういう共感力が入るといいですね。皆それぞれが調整役になる。これが私の理想とするHitachi Wayなのです。

冨山 個人の力の最大化と、チームとしてどう全体最適化するか。皆が対峙している問題です。

東原 例えば、生成AIがこれだけ発達してきますと、データセンターは電気を大量に消費します。データセンターを含むデマンド系は、NVIDIAのGPU等を活用し省エネルギー化が必要であり、また電力のサプライサイドである発電系や、送電系も強くしないといけない。デマンド、サプライ、カーボンニュートラルと、全ての全体最適を考える人が必要でしょう。今後出てくるソリューションも、一つのビジネスユニットだけでは片付かないと考えています。さまざまなビジネスユニットが組み合わさり、全体最適を図る考え方を持ち、調整しながら進める。このようなプロジェクトをOne Hitachiプロジェクトと呼んでおり、今後増やしていきたいと考えています。

冨山 部分最適の積分値が全体最適にならないということですね。

東原 ならなくなってきていますね。何が全体最適かというのは、時間軸と地域とバリューで変わります。地域が同じでも5年前と今は価値観が違いますし、また時間軸が同じでも地域が異なると価値観は変わります。私はトップがそれぞれのステークホルダーにとって何が全体最適かを判断するのがいいと思います。

冨山 地域軸がこれから大事だとおっしゃっていたのはそういう脈略ですか。

東原 そうです。最適が時間軸で変わってくるし、地域軸でも変わってくる。日立はシステム系の事業会社として各判断軸と調和しないといけない。

冨山 最適化モデルが異なるということですね。

東原 システマティックな分野では、日本の技術力はこの先も幅広く応用ができるため、まだ世界に勝てるのではと思います。今後、社会貢献やお客さまの本当の満足を得るには、社会全体での協創が大事となるため、1社だけではなし得ず複数社の協働が必要になります。その際にどのように成功の果実を分配するかをあらかじめ決めるなどして、一緒に取り組むことが大切です。オープンイノベーションという言葉が、やっと実感され始めてきたのではないでしょうか。

なお、日本市場だけを見ていては将来性がないことが広く理解されておらず、心配しています。この数年は日本でもつから、というような発想をしている企業がまだあります。市場はグローバルだということを大前提に企業価値を考えないといけません。それを取締役会や社外取締役が指摘しなければ、日本の産業界はおかしくなるのではないでしょうか。

冨山 川村さんの改革で、ガバナンス構造を変えてから何年たちますか。構造が変わると、内部も即変わるとの幻想を持つ人は意外と多い。手ごたえが実際に感じられるまでどの位かかりましたか。

東原 川村さんの改革は2009年からですので、結局10年近くはかかりました。show the flagでフラグを立てたら時間が掛かってもやり遂げることです。変に妥協しないほうがいい。

冨山 これは大事ですね。企業変革には、まず10年は努力しなくてはいけません。

東原 改めて、「執行役よ、元気になれ」と伝えたいです。海外をみていると、絶対権限を持っている取締役の力が強い。10年後の日本を想像したときに、欧米のように取締役が非常に強くなって、執行役は執行だけやると萎縮することを若干懸念しています。執行役は取締役と意見を戦わせつつ、直球を投げればよい。行き過ぎれば取締役がガバナンスをきかせてくれるので、より思い切ってできる。これが、私が望むことです。

リスク取るESGの発信を

冨山 最後に、日本取締役協会へ期待することがあればぜひお聞かせください。

東原 協会が発信された、コーポレートガバナンスはこうあるべしという考えはだいぶ定着してきたと思います。先ほど申し上げたように、ガバナンスというとまだリアクティブに聞こえてしまうため、よりプロアクティブでrisk takingなガバナンスを議論する必要があると思います。また、ESGのあるべき理想形など、時間軸で変わっていく将来のトレンドを協会から先に出していただくとよいのかなと思います。具体的には、人的資本の強化について、コーポレートガバナンスとしてどういうアプローチをすべきか、将来ビジョンを出すのも一つかもしれません。中長期な人財育成のあるべき姿をビジョンとして示すと、企業も変わってくると思います。

また日本企業でよく聞くのは、人財プールがないことです。協会で上手くマッチングさせていただければ、ニーズは沢山あるのではないか思います。

冨山 社外取締役になる人への啓発でもありますね。承知しました。本日は、よいお話、ありがとうございました。

東原敏昭氏

東原敏昭 Toshiaki Higashihara
日立製作所 取締役会長 代表執行役
1977年日立製作所入社。電力や鉄道など様々な分野の制御システムの品質保証や取り纏め業務に長く従事。国内外の子会社社長等の経営経験を経て、2014年執行役社長兼COO兼取締役、2016年執行役社長兼CEO兼取締役、2021年執行役会長兼CEO兼取締役、2022年4月より現職。社外でも経団連副会長や日本科学技術振興財団理事長などを務め、社会課題解決や科学技術教育支援に尽力。著書に『日立の壁』(東洋経済新報社)。

冨山和彦氏

冨山和彦 Kazuhiko Toyama
IGPIグループ 会長、日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役社長
ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクションを経て、産業再生機構設立時に参画。解散後、経営共創基盤(IGPI)を設立。内閣官房「新しい資本主義実現会議」委員、金融庁・東証「スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」委員ほか政府関係委員多数。著書に『ホワイトカラー消滅』『コーポレート・トランスフォーメーション』『社長の条件』他。東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格

撮影:淺野豊親