女性活躍推進ワーキンググループ活動報告

2025年3月17日

女性活躍推進ワーキンググループ活動報告

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.17 - 2024年12月号 掲載 ]

"多様性を増して勝てるチームを作る"
トップには意識転換が必要

10月2日、第3回の女性活躍推進ワーキンググループ会合を開催しました。女性の抜擢・昇進の際に「女性は下駄をはかせてでも昇進させるべきか」「女性だけ下駄をはかせるのはおかしい」などという声がよく聞かれるという話から、今回はこの「下駄をはかせる」(=特別扱いの意味)という意識が女性の活躍の機会を阻んでいるのではないかという視点にて議論を行いました。会場・オンライン含め100名余の参加がありました。


猿田隆 男社会の銀行、アセットマネジメント業界で、入社3年目に総合職女性の採用に関わった。またシンガポール、マレーシアに駐在し、女性の比率3分の2の環境に追い込まれた。これらの時に、私の社会人としてDE&Iが始まったと思います。変革を加速するにはどうしたらよいか。脳のサバイバル機能は、人間は生き抜いていくために本能的に同質化するので、これを意識した上で全く逆の行動を取らなくてはいけないと当社の研修で知りました。国籍、男女、年齢は関係ないという意識を、当社では根付かせたいと思います。まずリーダーから意識しないとどうしようもない。脳の機能を反対に働かせる。これを日本全体が意識してやっていければ、もっとスピード上げてDE&Iが進むと期待します。

鈴木蘭美 最近、長年尊敬している男性から、「うちの会社は、女性が下駄履いているからね」といわれ、返答に困りました。私自身、下駄を履いたという意識が一切ないからです。周りの優秀な女性たちも下駄なんて必要ないくらい猛烈に仕事に取り組んでいます。またある上場企業社長は、「女性が下駄を履いていると感じる人は、その高さの測り方が古いのではないか。これからは人事制度やパフォーマンスについて、一人ひとりのマインドセットをアップデートしていくことが大事」とお話くださいました。先の質問に、どうしたらウィッティな返答ができるかというお知恵をぜひ貸してください。

林・小野有理 大学卒業後、性差など気にならない会社で働き、地方創生への興味から四條畷市の副市長になりました。着任後、女性の管理職比率は5pt上昇しましたが、子ども・高齢者福祉や教育など元来女性が多い分野に偏りがち。ある調査では、行政の局長級職員のキャリアの中で「庶務的業務」の経験年数の割合が女性は25%程度に対し男性は0%、「局長級の職務に直結する業務」の経験年数が女性は平均35%弱に留まる一方、男性は約70%弱だったそうです。女性管理職の増加を叫んでも、その実キャリアを積ませていない。これが「下駄」問題につながるのではと考えます。キャリアが未熟な女性を抜擢するなら組織として十分なバックアップやフォローが必要です。そして、「以降は下駄なんて無くす」との気概を持って組織を変革しないといけません。

小出寛子 キャリアの大半はグローバル企業でしたので、「女性だから下駄をはかせる」という概念自体がありませんでした。10年前からプライム上場企業で社外取締役を務める中で、この問題に直面しています。そもそも昇進や抜擢の元となる人事評価に透明性や客観性があり、昇進基準はちゃんと定義されているのか。新卒採用、年功序列、終身雇用といった男性の同質な価値観から作られた仕組みの中で、男性こそ男性であるという理由で下駄をはかせてもらっていたのでは。

大切なのは、能力を発揮できる機会が女性にも平等に与えられているのか、経営に近い経験を与えているのか、男女問わず人を育て、評価する仕組みができているのか、これらに尽きると思います。欧米企業でも、ポテンシャルがあるからストレッチさせてみようというケースはあります。それは下駄によるかさ上げではなくて、背伸びです。言葉の捉え方も含めて、欧米と日本の考え方には大きな違いがあります

(テーマ1)昇進、抜擢の基準はそもそも明確で透明性があるのか。皆平等に能力を発揮する機会を与えられ、公正な評価を受けているのか。男女共に下駄はなくすべきか。それとも逆に、管理職の半数が女性になるまで積極的に下駄をはかせるべきか。

  • 女性が人事権や意思決定権を持てば、数が増えるきっかけになる。
  • 期待されたのにダメな場合もある。その時にやり直せるような土壌がない。
  • 下駄はあくまで同じスタートに立っている人の話であって、そもそも女性のスタート位置は地面より低い。
  • 日系企業で女性が昇進しようと思うと、経営以外の専門性を高める形で生き残ってきたのが現実。
  • 本会議の参加者が、女性が大半なこと自体に既に違和感を持つ。(当日の会場参加比率 男性対女性 1対4)

(テーマ2)やる気と能力のあるすべての人が活躍できる企業や社会になれるのだろうか。我々は、どこの・誰に焦点を置いて、どのように働きかけていくべきか。(ターゲットにより打ち手も変わる)

  • チャンスを与え、修羅場を踏ませることが実績に繋がる。トップにその意識がないと女性は上がっていけない。
  • 女性側も待っているだけではダメで、企業、仲間、教育や家庭にも働きかけ、次世代を考えて行動を取りたい。
  • トップランナーだけでなく、いろんなタレントを持った人がそれぞれの強みを持って活躍できるといい。
  • 経営者で女性活躍推進の必要性を自分の言葉で語れる方はほとんどいない。同質性のリスクや組織の弱体化を説得材料としたい。社外取締役が社長にストーリーで語ることも大事。
  • トップが経営戦略としてDE&Iを社内に浸透させ、繰り返していわないと、中間層の妨害や岩盤を壊していくことはできない。
  • ジェンダーのみならず年齢に対しての遠慮もある。年齢に関係なく成果が出れば変わってくるだろう。

小出寛子 女性側も、昇進、抜擢の機会が与えられたのなら遠慮せず、自分の成長のチャンスだと自信を持って前に進んでほしいと思います。ジェンダーバイアスをなくす取り組みは学校・家庭教育から始めていかないと、この大きな問題は根本的に解決しないなと感じました。

猿田隆 投資をしている立場で申し上げると、日本の企業は今からリスク取りにいかないと先がない。変わっていかなければ、生きていけない。リーダーの元に同じような人材が集まっても、何もできません。どうダイバーシファイして勝てるチームを作るという転換を、日本の企業には進めてほしいと思っています。


ゲストメンター/猿田隆氏(三井住友DSアセットマネジメント 代表取締役社長 兼 CEO)
ディスカッションリーダー/鈴木蘭美氏(ARC Therapies 代表取締役社長、ARCHIMED GROUP マネージングディレクター、MONEX GROUP 社外取締役)
同/林・小野有理氏(エン・ジャパン社外取締役、有理舎 主宰)
リーダー・オブ・リーダーズ/小出寛子氏(J.フロントリテイリング 取締役会議長・社外取締役、大成建設 社外取締役)