TOP RUNNER:企業経営の改革者に聞く vol.1 斉藤惇×安田結子

TOP RUNNER:企業経営の改革者に聞く vol.1 斉藤惇×安田結子

2020年4月 6日

斉藤惇(コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー 審査委員長)
安田結子(ラッセル・レイノルズ・アソシエイツ マネージング・ディレクター)

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.1 - 2019年9月号 掲載 ]

企業経営の改革に取り組むトップランナーに日本企業のあり方をうかがうインタビューをシリーズでお届けします。最初のゲストは日本のコーポレートガバナンスを主導してきた斉藤惇さんです。斉藤さんは少子高齢化が進む日本が今後も成長を続けるには企業自身が稼ぐ力を高める必要があると指摘し、そのためにガバナンス経営が必須だと強調します。そして企業経営者の姿勢や覚悟が今こそ問われているとしています。聞き手の「ボードの女神」は、安田結子さんです。

安田:斉藤さんが最初にラッセル・レイノルズを認識された1990年代初頭は、エグゼクティブ・リクルーティング、いわゆるヘッドハンティングをやっている会社だったと思うのですが、ラッセル・レイノルズの事業内容も変遷して、ここ数年は日本の企業に対し社外取締役の招聘や最高経営責任者(CEO)のサクセッションプラン、そのための経営幹部のリーダーシップアセスメント、取締役会の実効性評価などのガバナンスに関わるお仕事をさせていただいております。

斉藤さんは常日頃、コーポレートガバナンスがライフワークだとおっしゃっていると伺い、今日はその辺りをぜひお伺いできればと、大変楽しみにして参りました。

最初に80年代、Japan as Num-ber Oneと言われた日本企業が、なぜ失われた20年という形で凋落をし、グローバル企業から周回遅れになってしまっているのか、斉藤さんの経営者としてご覧になられた意見を伺えればと思っております。

斉藤氏

200年変わらぬ日本人の個性

斉藤:日本の文化の素晴らしいところは、当然誇りに思っているのですが、同時に、日本人の持っているキャラクターは、実は200年間、変わってないと思うのです。環境の変化によって、そのキャラクターがうまく時代とマッチして、社会や経済がぐっと伸びる時期があった。しかし現在は社会や技術等が変わり、合わない時代になり、日本は沈滞した、ということじゃないかと思うのです。日本人がグローバルに適合しなかった、あるいはビジネスモデルを変えきれなかったという、結果論としてはそうなのですが、僕には何か逆に見えるのですね。明治からは成長もあれば、失敗もあるわけですが、ある程度成功した。日本人の生真面目、教育性が高いことが世界の情勢から見ると、アジアでは抜群だった。何もなかったところに西洋文明が入ってきて、ぐっと伸びていく。それが大正、昭和であり、過剰な自信が戦争へ突入し、間違いをする。そこでまたゼロになる。日本人は実は変わってないけれど、真空状態になったために、再び急速に成長した。それがワークして、1980年ぐらいまでは、何もないところを満たしてきた。ましてアジアにおいては、先進国のような状況でしたから、成長した。生活環境もGDPも伸びた。

ところが戦後一貫して、成功体験に対する執着性があり、否定ができない民族なので、成功した人や事柄を見直すことが求められても、対応がものすごく不得意だと思うのです。その性格はずっと変わってない。ただ環境が変わった。特に1980年ぐらいから、通信技術の進歩、アジアの台頭、日本から学んだのでしょうが、韓国、中国、アジアの諸国が一気に教育水準を上げてくる。同じ成長を保とうとするなら、その変化に対して、対応しなければいけなかったのですが、それを分かっていながら無視をするというところが日本にありました。

日本の課題、例えば、少子高齢化問題だって、何も今始まった問題じゃなくて、こんなのは30年ぐらい前からある。

安田:そうですね。日本の出生率が1990年に1.57に落ち込んで以来、確実に減少傾向にありますね。

斉藤:算数の問題ですからね。本に書かれたり、いろいろ言う人はいた。行政もあり得ない数字、例えば出生率も1.8とか1.7とかを使いながら、実に曖昧にする。この国には曖昧の文化があって、それをクリアにすることを是としないのです。これが日本の文化なのですね。日本の芸術、食べ物もそう。外国のシャープに切り分けた国から来ると、曖昧な美しさというものに惹かれているという良さもあります。しかしこの国自体は、それで成長性を失っているし、将来に対するものすごい不安が固まっている。

安田:かつての高度成長の成功モデルからの転換ができぬまま、日本の成長率は低迷しているわけですが、日本の基本的ビジネスモデル・スタイルについてはどうお考えですか。

斉藤:よく言われるように、垂直型のビジネスモデルはチームワークと共に、大量生産にはもってこいですが、それがだんだんグローバライゼーションという言葉とともに、水平統合の必要性が大きくなったときに、日本は縦のものを横にできないわけです。何故かというと、縦をものすごく評価している。社会も、縦で成功した人を評価しているでしょう。横であまり成功した人は出てきていないし、メディア含めて評価しない。

ところが欧米の場合、変換が早い。縦の垂直統合が進まないとなったら、水平統合でいく。世界中にネットを張って、世界中から優秀な人材を集めて、何も本社はアメリカになくても良い。スコットランドでもアイスランドでもいい。税金の関係などもあるかもしれませんが、日本人は同じに考えても、例えばトヨタが本社をアイスランドに移すことは考えられない。もしトヨタがそれは税金のためだと言ったら、逆に叩かれちゃう。

例えば、グーグルやアップル、フェイスブック、アマゾン・コムの頭文字を並べたアメリカのGAFAなどは、低課税国に拠点を置いたりしていますね。

その固執が美しい面もあるんだけど、結果的には成長、社会の富を生む構造を阻害していますよね。ガバナンスでも財界の一部でリーダーシップを取って転換していこうとすると、いまだに袋叩きでしょう。

安田氏

No.1と言われた日本企業が
なぜこの20年で凋落したのか

安田:このグローバルで進展する水平統合型は、今言われるGAFAや米配車大手のウーバー・テクノロジーズという企業に代表されるのでしょうか。

斉藤: GAFAのほとんどが、自分で物は作っていませんね。ものを作って、付加価値を上げることは、物がない状況のときは、それが一番求められる。ところが、特に日本や先進7か国は、物はあふれているわけです。完全に生産過剰に入っているので、物の価値はどんどん下がっていく。

今は何に価値が出ているかというと、情報、例えば芸術、スポーツ、人がエキサイトすることがものすごく価値になっている。自分で携帯電話を作るよりは、世界で一番誰が安く作れるかと、GAFAの人たちは思ったわけです。安く作れそうな、日本、韓国、中国、台湾、で作らせよう、だけど基本デザインやソフトは自分たちでやる。彼らがすごいのは、他人に製造させておいて、利益の5割、6割は自分たちが取るようなメカニズムを作るのです。これもソフトパワーです。これは、法律・契約、マーケティング、そういうことになると思います。そういうものを磨いているわけです。

ところが、日本は何を磨いたかというと、良い半導体をどう安く作るかを一生懸命やってきた。しかも技術そのもののレベルは高かったのに、市場動向やニーズの将来分析がしっかりできず迷っている間に、その技術も韓国や台湾に渡り、彼らは一気に投資した。

また日本がその権限を独占して、グーグルもアップルもそれなしには商品ができないというぐらいの契約をすればよかったのだが、逆になりました。アップル創業者の故スティーブ・ジョブスの自叙伝にも、いかに東芝やソニーの技術を使ったか書いてあります。これなしにはできなかった。

安田:そうですね。独自の技術力を梃にしてプラットフォームとする発想が足りないのですね。

斉藤:オリジナル技術は完全にそうです。それが韓国や、台湾、中国でアセンブリされています。アメリカのすごさは、物をつくる価値よりも、人につくらせて、自分がどう儲かるかという巧みな仕組みをつくって、とんでもないバリューにするわけです。このバリュエーションを日本はつくれなかったのです。

GAFAで活躍しているのは、比較的新しい移民世代で、国籍にあまりこだわっていない。こだわりのなさが、新しいビジネスモデルをつくったのです。これは思想・哲学・文化の問題です。日本人はなかなかできないと思います。

アメリカのように、数十か国の人間が入り混じった国では、緊張感もあるし、知識も発育する。これは使える、これは使えないというような選別も、小さいときから訓練される。そういう教育経験は、日本の教育体系や親の教育の中にはないわけですよ。塾へ行かせて、一律の偏差値で点数取って、暗記学問で。日本人、日本語、一色。

安田:まさに世界の経済は水平統合型の思考と、多様化の価値感が重要になっているということですね。

斉藤:多様化することが、価値を産む時代になっていることに対して、できなかった。これが、振り返ってみれば、いまの日本の窮境原因でしょう。

日本国内でも人口が増えていけば、ある程度の市場になります。かつては、日本の市場でテレビや洗濯機が成功すれば、絶対に世界で売れる。ソニーのIRに一緒させて頂いて、盛田さんが技術を自慢なさったが確かにすごかった。

安田:そのような環境の中で、日本企業の成長戦略を実現するための実効的なコーポレートガバナンスの必要性が高まっていますか。

斉藤:今回のテーマであるガバナンスでは、誰かがトリガーを引かなければいけない。昔、経団連で座談会があって、僕が社外監査役を入れるべきだと言ったら、会社の中をわかっていない人が監査するなんで考えられない、と社長さんたちに言われた。

社内だけの理屈で成功する企業もないとは言わないが、外の目を入れて、社内を分からない人に説明をする。それによって、自分も分かることがある。ファンドやアクティビストが来て厳しいことを言ったときに、一蹴する方法もあるが、それを真正面から受けて、社内で研究して答えるという過程で、経営者が勉強するやり方もある。そういう外からの圧力、素直に質問に答える。そのプロセスが経営には大事です。

安田:まさに外部に対する説明責任、客観性、透明性が、ガバナンスの一丁目一番地のように思うのですけれども、まさに外からどう見えるか、外に対してどう説明することですね。

斉藤:説明は嘘でごまかしてはいけない。かっこよく答えたいという人は嘘が伴う。それは全く意味がない。赤裸々に出す。特に反省点を直す、その過程で企業価値が上がるのです。社内とは異なった社外の情報や感覚は本当に大事だと思います。

斉藤氏

稼ぐ力をつけるには
コーポレートガバナンスが必須

安田:まさにその企業価値の向上を目指して、2015年安倍内閣の成長戦略の中で、コーポレートガバナンス・コードが策定、2018年には改定もされました。私どもが見ていても、多くの企業がガバナンスを熱心に勉強され、形式面からまずは努力して整えました。ガバナンスの実態も整っている企業もありますが、まだまだ形だけということを聞く中で、ガバナンスの真髄である稼ぐ力を、コード導入によってどれだけ高めることができたかに関して、斉藤さんからご覧になって、どう見てらっしゃいますか。 斉藤:稼ぐ力としては生産性を上げないといけない。GDPが1%以下でしか成長できなかった平成というのは敗北の30年ですよ。アメリカのGDPは30年間で3.7倍になった。株は時価総額が4、5倍にはなっている。日本は時価総額600兆円のまま伸びていない。

GDPの成長は、労働人口の投入量、資本投入、そして全要素生産性、この構成要因でできるわけですが、一番影響するのは、全要素生産性です。ビジネスモデルが変わらなかった。設備投資にしても、効果的な設備投資をしていないということです。また労働者一人あたりの生産性を上げると言ったときに、まず日本の経営者が取り組むのは経費カットなのです。ところが欧米の経営者は、売上と利益を伸ばそうとする。経費カットは、優先しない。

ですからこの20年日本では賃金は上がるどころか下がっている。ましてや老齢化し、みな銀行預金をする。なぜならば将来が不安だからです。だから消費も伸びないのです。

安田:将来が不安。若い方はそう言いますよね。

斉藤:この心理状態を変えなきゃ駄目です。僕たちのときはそうじゃなかった。今は逆です。最近入社した人は、物が上がるとか、給料が上がるという経験は、ほとんどないでしょう。

俺はがんがん働くぞ、その代わり、給料をたくさんもらうぞ。会社からもらえなかったら、自分で会社作るぞ、という人達の集団にならないと人生楽しくないでしょう。今の若者はあらゆるデータで国際比較すると、リスクは取りたくない、将来が分からないことはやりたくない。こういう答えが、日本は世界一ですね。

安田:そうですね。

斉藤:ドイツや韓国でも「チャレンジする」が70%ぐらいですよ。日本は55%しかいない。

これは社会構造の問題もある。僕は、人口が減っているということは、ものすごいマイナスだと思います。人口が増える政策を積極的にしなきゃいけない。フランスも同じ問題にぶつかったが、歴史的にお互いに陸続きで戦争しているので、人口は国力、これはもう身に染みています。人口が減る国は、必ずつぶされるという意識があって、何が何でも人口を増やす、移民政策なんかもあるわけです。日本はそういう経験がないのですよ。

安田:海に囲まれて、鎖国したし。現在60%以上が60歳以上ですね。

斉藤:そんな国は持続しないのですよ。特に生産人口が減っていく。総人口の減少スピードよりも、生産人口の落ちるスピードのほうが早いわけです。

安田:話をコーポレートガバナンスに戻しますが、現在審査員をお務めの、日本取締役協会コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤーの意味や選考プロセス、もしくは、受賞される方の会社にかかわられての感想というのはいかがでしょうか。

斉藤:ここで候補になる会社は厳選された会社なので、経営者の方々も実に立派で、先程の課題を頭に入れて取り組んでいますね。しかし、まだ全上場企業の数パーセントです。

これをどう広めるかという努力を日本取締役協会はしていると思うのです。成功者を見せるという意味で、広く表彰していく。これに同調され、経産省や東京都までそれぞれ自分の賞を作られて、我々と一緒に表彰するようになってきましたが、いいことだと思います。それは成功者を称える、なかなかこの国はそれが苦手なのですね。

安田:文化として、公に他者を称える風習はないかもしれません。

斉藤:成功者をしっかり称える。その代わり、しっかり評価する、情緒じゃなくて。我々はかなり論理的な分析をして、厳しい評価でやっています。選ばれた方は、賞を受けてコメントされる、重要なことだと思います。これが普及して、そうでなかった会社も少しずつでもいいから増えていけばいいと思います。

斉藤氏

独立取締役は『ダメ出し』も必要だ

斉藤:安田さんは社外取締役の招聘もお仕事だときいていますが、人材確保においては相当悩まれるのではないかと思います。

安田:素晴らしい経営者出身の社外取締役候補もたくさんいらっしゃいますが、企業の求める社外取締役像とのマッチングは悩むところです。斉藤さんが考える社外取締役のあるべき姿をお聞かせ下さい。

斉藤:「実になっとらん」とはっきり言うことが必要です(笑)。例えば利益が激減した、事故が起きた、犯罪をやった、いろんな会社があるけども、今は謝って終わり、なあなあです。そういう会社を見て、社外取締役は何しているんだと思う。社外取締役はそういうCEOに選ばれているから、癒着している。CEOの中には「あなたの給料は、よそよりたくさん出しているからね」なんて言う人もいる。独立社外取締役は、株主側の代理でなければいけない。半分ぐらいCEOの代理になっているかもしれない。

マスコミもあまりたたかなくなっている。昔は、大きな歴史的な減益なんか出したら、さっと潔く辞めたものです。そういう責任の取り方がなくなってきた。何とかごまかして、私の責任はこれをリカバリーすることですなんて言う。赤字をつくった本人がリカバリーするなんてあり得ません。次の若い人にやらせなさいと言いたい。どうしてそれを社外取締役は言わないのか。厳しい社外取締役を入れて初めて、会社は大丈夫だと言えるのです。

大会社を退任した役員方が、「斉藤さん、職ないかね、社外取締役でいいんだけど」という、この会話は、僕はないと思うな。

安田:社外取締役に対する需要が増加している中で、社外取締役に対する、客観的な選任プロセスと、パフォーマンスに関する評価という事が重要と考えております。 

斉藤:むしろ名誉職として、社会のために尽くしたいというぐらいの気持ちでやってほしい。交通費ぐらいはもらったらいいと思いますけれど。「あそこはいくら出すかな」なんて言う、多くの人からそういう相談を受けました。

安田:社外取締役は独立性が大変重要で、執行からの独立性と、経済的な独立性の両面での独立性が求められると思います。残念ながら、副収入の一部と考えている方もいらっしゃるのは事実です。ただそれは社外取締役のほうの責任であるものの、企業の責任でもあります。その企業の経営側が、社外取締役に何を求めるかを明確に提示せず、あやふやなまま、とにかく3人そろえなければいけないという発想で社外取締役を探すといった実態も原因かと思います。

斉藤:おっしゃるとおり。そこを変えないといけないですね。

安田:コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤーに選ばれているような会社は、自身の会社の戦略において、取締役会の果たす役割に関して真剣に考えられていらっしゃいますね。

斉藤:社外取締役の任期を厳密に決めているなど、立派で感激した。絶対成長してもらいたいと思ったし、ああいう会社は生き残ると思うのですよ。

安田:やはり、ガバナンスにしても、会社の成長戦略の策定にしても、CEOがどう考えるか、そして実行するかにかかっていますね。

斉藤:そのようなCEOをどう選ぶかなのですよ。そういうセンスを持っている人をCEOにしないといけない。「俺が会長で残って、言うことを聞くような人をCEOにしよう」なんていう会社も依然として多い。

斉藤氏

次世代の経営トップは
挑戦と責任のバランスが大事

安田:以前、斉藤さんが、「廉恥心」というのをおっしゃっていたのですが、リーダーたるもの、恥ずかしいことはしてはいけないという気持ちを失っている経営者もいると思います。

斉藤:廉恥心というのは、もう本当になくなりつつあるんじゃないかな。明治維新が成功した一つは、僕はそれだと思うのですよ。廉恥心というもので、彼らは命懸けでやったわけです。そういう厳しいところは戦前教育にはあったと思う。アメリカはそこをつぶしちゃったのですね。日本は一回見直したらいいと思う。

人間としての潔さを厳しく求めているわけです。短刀を横に差しながら歩いている民族は、いざと言えば、腹切りますと。

今の連中は切らないよ。短刀差していないですから。ただ、僕は野村をやめた時、代表権ある人にみんな辞表書いてくれと言いました。外に職探しに行く、子会社なんて一切駄目とした。もっとも一部の人は残りましたけどね。

安田:そのように、自身の身の引き方を潔くできる方が本当に少ないですね。自分が会社の看板を下ろしても戦える自信と、新しいことを始めることを恐れない、チャレンジ精神だと思いますね。

斉藤:自分で食える人間になっておかないといけない。組織がないと食えないっていう状況だと、どうしても組織にこびちゃう。「組織、何?俺が働いてやっているんだ」っていう気持ち。この頃東京大学なんか出られた方でも、どんどん自分で起業していますから、少しずつ変わりつつあるんだと思います。早くそうなってほしいし、変わらざるを得ないですよ。変わらなかったら、この国は本当に消えると思う。

安田:そうですね。

安田:若い経営者や、新しいイノベーションを起こす起業家は出ていますが、少なくとも今上場している3,000社の多くは、これからも生き残らないといけないわけです。これらの経営者、次世代の経営を担う方たちに何かメッセージがあるとすると、どういったメッセージになりますでしょうか。

斉藤:日本を変えるには今しかない。大戦以上の危機に遭遇しているという責任感と、挑戦力が必要だと思います。過去の成功体験を否定するぐらいの覚悟が必要です。

率先して責任を負担し、その責任感をエネルギーとしてスピードを以て挑戦するしか国を救う道はないでしょう。感覚的には日本的家族主義を捨てて、全世界的視野で展開する、胆力と能力が求められます。

挑戦に喜びを感じる。逃げない、失敗したら潔く責任を背負って、一線を引くといった人生観も必要でしょう。

それはアメリカだけじゃなくて、中国、韓国、インドネシア、マレーシアにもそういう人が出てくる。今から先は、絶対アジアだと思う。人口的に、アジアに全部市場がある。

斉藤氏と安田氏

日本を変えるには今しかない。
責任感と挑戦力を

例えば本社は何も日本にこだわらないで、アジアの青年を日本人と同じ給料にして、優秀な人を採用する。勉強もエネルギーも彼らは違うのですよ。日本も教育にエネルギーを使っているかもしれないが、教条的な形にはまった教育をやっている。幅がないと駄目で、ユニークな個性を伸ばす、データで説明し、納得したらやらせてみて、失敗したら、またやったらいいよっていうような教育をしないと。例えばボールを公園で投げたら、怪我をするからやらせない。

その本当の理由は。学校の先生、本人の親、関係者、教育長、公園の責任者、みんながリスク取りたくないから、やらせないっていう結論になり子供の喜びや体力増強は無視される。

安田:いちばんいけないですよね。

斉藤:最低の結論にいく。やらせないという言葉は、結局何を言っているかと言うと、みんな自分が責任取らされたくないっていうだけですよ。「俺が責任取る」っていうような先生がおられたら、みんなでサポートしないといけない。そういう国にならなきゃ駄目。

斉藤:すでに見えていた日本の課題が、いろんな形で目前に迫ってきた。生まれる子どもが90万、死ぬ人が130万と、それ以上のスピードで老齢化が進む、そういう問題も出てきました。この影響というのは、個人が我が身の問題として、解決しないといけない。今までのユートピア論争を乗り越えないといけない時代が来ている。そうでなかったら、痛い目に遭うのは自分だということが、はっきりしたと思う。

今、痛みを感じ、コストを払って、身を粉にして厳しい課題に挑戦しなければ、悲惨な将来が到来する。みなさんが先導役、提言者となって、こういう課題に挑戦され、問題点を明らかにしていくことは意義のあることだと思います。

安田:今日、私は、斉藤さんからお話を伺って一番印象に残ったのは、リーダーは強くならなくちゃいけないというところです。強くなるということの意味を違えて、ものすごくいろんな批判も上がるのは事実なのですけれど。リーダーなり、会社の経営者が強くなり、そして会社を強くする意識を常に持たないといけない。ただ、強い立場に立ったならば、外から見て恥ずかしい事はしてはいけないという廉恥心、外から常に客観的に自身なり、企業を監視監督してもらうことが本当に大事である、と思いながら聞いておりました。

そういう面では、私自身はガバナンスという狭いところでフォーカスしていますが、これは私にとってもライフワークだと思っておりますし、日本企業の変革なり、より強い日本企業が生まれてくることをお手伝いできればいいなというふうに思い返した対談でございました。

斉藤惇

斉藤惇 コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー 審査委員長
日本野球機構会長・プロ野球組織コミッショナー
野村証券株式会社代表取締役副社長、住友ライフ・インベストメント株式会社代表取締役社長・会長等を歴任後、2003年~2007 株式会社産業再生機構代表取締役社長。2007年から株式会社東京証券取引所グループ取締役兼代表執行役社長。2013年~2015年株式会社日本取引所グループ取締役兼代表執行役グループCEO。2015年KKRジャパン会長、2017年KKR Global Institute シニアフェロー。2017年11月より現職。

安田結子

安田結子 ラッセル・レイノルズ・アソシエイツ マネージング・ディレクター
東京を拠点とし、日本カントリーマネージャーを務めたほか、本社のエグゼクティブコミッティ等を歴任。エグゼクティブサーチ、後継者育成、人材アセスメントの豊富な経験を持ち、主にCEOやその他の経営幹部人材の採用支援、社外取締役招聘や取締役会実効性評価、CEO後継者育成計画支援等に従事。要職に経済同友会 幹事、株式会社村田製作所 社外取締役、出光興産株式会社 社外取締役。

撮影:淺野豊親