緊急意見 日本の上場子会社のコーポレートガバナンスの在り方 (2019)
日本取締役協会(会長 宮内義彦)は、現在マスメディア等で取り上げられている、日産、アスクルの問題などを受け、日本の上場子会社のコーポレートガバナンスの在り方、間違った欧米流の資本の論理の解釈を是正し、支配的株主の少数株主保護義務についての考え方を発表します。
当協会としては、CEOを考える委員会(委員長: 冨山 和彦、株式会社 経営共創基盤 代表取締役CEO)で、こうした親子上場のガバナンスの検討をすすめており、「この紛争当事者、関係省庁において、この紛争がコーポレートガバナンスの基本原則に即した事態収拾及び総括、そして再発防止に関する制度整備を行うことを期待する。特に支配的株主の少数株主保護義務については、ルノー・日産、本件と深刻な紛争が続いていることを受け、米国、英国、ドイツなどの先進事例を参考に、金融庁及び法務省に対して、迅速な制度整備を強く要望する」ものです。
要点
- 親子上場は子会社の事業成長を加速するインキュベーション支援機能もあり、それ自体を否定するものではない。しかし、ルノー日産の間で問題になっているように、親会社と子会社の少数株主、一般株主との間に利益相反が生じるリスクがあり、それを規律する統治メカニズムが整備され、適正に運用されることは重要である。これは、6月に公表された経済産業省のグループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(以下、グループガイドライン)でも示されている通り。そこでは、上場子会社側の独立社外取締役が、少数一般株主の利益を守るために重要な役割を果たす必要がある。
- しかし問題になっているヤフーとアスクルの間の社長再任をめぐる対立で、アスクルの社長候補の取締役を不再任にしただけでなく、同じ理由で、独立社外取締役まで全員不再任としたのは、親子上場企業のガバナンス上、重大な問題である。支配的株主の横暴をけん制するために存在している、独立取締役を緊急性も違法行為もない状態で解任できるならば、ガバナンスの基本構造が成り立たなくなる。
- ヤフーが問題としている経営者選任については、親会社として株主総会において実質的な拒否権を持っており、選任防止のために独立取締役まで不再任にする必要性も緊急性もない。むしろこの不再任は、親子間の利益相反における上場子会社の少数株主保護を独立取締役に託したグループガイドラインの主旨に明確に反し、独立取締役がゼロになった状況は、金融庁・東証のコーポレートガバナンス・コード上も、会社法上も立法趣旨としては大きな問題状況を生み出している。
- そもそも支配的株主と少数株主の間においては、両者の利益相反問題から少数株主を守る責任のある独立取締役を支配的株主が選任出来るという構造矛盾がある。この矛盾を解決し紛争を予防するために、ガバナンス先進国では支配的株主に何らかの少数株主保護のための法的義務を負わせる仕組みを導入している。今回の紛争当事者は、いずれもある意味、制度的な未整備の被害者とも言える。我が国のコーポレートガバナンスの質を高め、資本市場をグローバルに発展させるためにも、米国、英国、ドイツなどの先進制度を参考にした同様の制度整備を急ぐべきである。