日本版コーポレートガバナンス・コードが制定されてから今年でまる5年が経過する。全上場銘柄のうち、コード制定前に社外取締役を導入していた企業は3分の2程度だったが、直近ではほぼ全銘柄が社外取締役を導入している。ROEについては、足元でマクロ環境が厳しいこともあり、改善ペースは遅いものの、それでも直近期でROEが8%以上であった銘柄は全体の半数を超えている。
注:日本取締役協会会員企業を等ウェイトで保有した場合の累積パフォーマンス。2002年4月末を0として、TOPIXに対する超過リターンを累積した
出所:QUICK、SMBC日興証券
コーポレートガバナンスとスチュワードシップ・コードは車の両輪である。会社がどれだけガバナンスの改善に努力しても、投資家がその価値を評価しなければ、株価やパフォーマンスにはつながらない。企業価値評価の観点からは、ガバナンスが良好な企業に対して投資家が要求するリスクプレミアムは低くなり、他の条件が同じであればより高い株価が許容される。また、投資家がガバナンスをより重視するようになれば、今まで以上に高い株価が許容され、結果としてパフォーマンスが高くなると考えられる。
ガバナンスの評価ポイントとしては情報開示や株主構成、取締役会の質など様々なものが考えられる。日本取締役協会は、コーポレートガバナンスの普及・啓蒙を目的として活動しているため、協会加盟企業のガバナンスの質は他の銘柄と比べて良好であると考えられる。そこで、協会加盟企業のパフォーマンスと市場平均を比較したところ、協会加盟企業は長年にわたって安定的なパフォーマンスを示してきた。これは、市場がガバナンスの改善を注視し続けていることを示しているといえよう。また、2020年1月時点の協会加盟全企業のパフォーマンスを計測すると、2018年3月以前に加入した企業のパフォーマンスを上回っている。これは、ガバナンスの水準に加え、改善についても市場が評価していることを示している。
ところで、近年のESG(環境、社会、ガバナンス)運用においては、環境に対する関心が高まっている。特に「TCFD(気候関連財務開示タスクフォース)」に賛同しているかどうかは重要なポイントである。TCFDは、今後起こりうる気候変動に関し、企業がどのような対応を行っているのかを開示するとともに、開示された情報を金融機関も活用することで、金融システムの安定化を図ろうとする取り組みである。日本はTCFDに賛同する企業数が世界で最も多いが、それでも東証1部企業で賛同している企業は8%程度にとどまっている。取締役協会に加盟する企業に限れば、賛同している企業の割合は4割近くに達する。ガバナンスに積極的に取り組む企業は、遠い将来に起こりうる気候変動リスクに対しても対応が行われていると考えられる。環境分野においては、日本企業が世界をリードする立場であって欲しいと考える。
伊藤 桂一Keiichi Ito
SMBC日興証券 株式会社 株式調査部 クオンツアナリスト(ランキング:2020年日経ヴェリタス クオンツ2位、Institutional Investor: Quantitative Research 2位(R/U)2020)