今後のコーポレートガバナンス改革の取組みについて

2022年2月10日

廣川斉(金融庁企画市場局 企業開示課長)

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.8 - 2021年12月号 掲載 ]

取締役の皆さまのご意見をお待ちしています

改革の検証の必要性

本年(2021年)7月からコーポレートガバナンスの担当となり、これまでの改革とその効果について、企業、投資家など様々な方々からご意見・評価をうかがってきました。

「コーポレートガバナンス・コードには企業統治のあるべき姿が描かれている」「コードによって、ガバナンスの改善に向けて取り組むべきことが整理・明確化された」「中期経営計画の策定プロセスの段階から、取締役会で審議事項として大きな方向性を議論するようになった」「取締役会の実効性について客観的な評価がなされるようになった」「取締役会の審議事項を戦略的課題中心にし、執行サイドへの委任範囲を拡大することで経営のスピードアップにつながった」といった評価は大変ありがたく、勇気づけられております。

一方で、「企業が『形式』『基準』の達成ばかりを求めるようになってきているのではないか」「機関投資家によるエンゲージメント(「目的を持った対話」)は十分効果が出ているのか」「改革が日本企業の成⻑にどう貢献してきたか検証すべき」といったご指摘も頂いています。

とりわけ、改革の効果を検証すべきとの指摘については、今後、幅広い関係者の協力を仰ぎつつ、例えば、インタビュー、定量分析といった手法を用いて検証に取り組んでいきたいと考えています。

検証に当たっては、コーポレートガバナンス改革で意図した効果である「中長期的な企業価値の向上」が実現しているかが究極的なテーマとなりますが、例えば、独立社外取締役比率や、指名委員会等設置会社などの機関設計が、企業の業績と正の相関を有するかどうかを定量的に分析するだけでは深度ある検証にはならないと考えています。

単に『形式』が整っているかということではなくて、コーポレートガバナンス・コードで掲げられた取組みの実践を通じて、中長期的な企業価値の向上が実現しているのか、あるいは、取組みの実践自体は進んできているが企業価値の向上に必ずしもつながっていないのか、といったように、具体的な取組みやプロセスに対する評価を含めて丁寧に検証する必要があると考えています。

取締役の皆さまからおうかがいしたいこと

この観点から、企業とりわけ取締役の皆さまそれぞれのコーポレートガバナンス改革に対する評価、特に、取締役として関与されている活動に対する自己評価をおうかがいしたいと考えています。

まずは、取締役会等の機能発揮に関する評価についてです。

取締役会等の機能発揮を評価するに当たっては、例えば、CEOの選解任・報酬設計、資本コストをベースとした経営戦略の策定、設備投資・研究開発投資・人的資本投資等の経営資源の配分、事業ポートフォリオ戦略の検討、少数株主の利益の保護などを思い浮かべていただくとよいと思います。

その際に、各テーマについて、取締役会等が機能発揮していますか、していませんか、ということだけを表層的に確認するのではなく、具体事案を頭の片隅に置きつつ、高評価の場合には、うまくいっている理由を、また、課題がある場合にはどこで悩まれているのか、どう改善しようとしているのか、といったように、他の企業が取締役会等の機能発揮に取り組む際のヒントになるような話をお伺いできればと考えています。

次に、エンゲージメントに関する評価についてです。

一口にエンゲージメントと言っても、アクティブ運用を含めた多くの機関投資家の投資対象となっている企業かどうか、アクティブ運用とパッシブ運用の差異、個々の投資家・アナリストの経験・能力の差などによって、様々な評価があると想像しています。皆さまのありのままの評価を出発点として、どうすればエンゲージメントがより効果的なものになるのかという点についておうかがいしたいと考えています。

また、それ以外の取組みについても、改革の実効性を高めていく観点から、忌憚ない評価をぜひお聞かせいただければと思います。

改革の推進に当たって

こうした検証作業は、2013年以来の一連の改革を振り返り、改革をさらに進めていく上で重要と考えています。

そして、改革を進めていくという観点から、私自身は、コーポレートガバナンス・コードの特徴として、コードが、いわゆる「プリンシプルベース・アプローチ」(原則主義)に基づき「コンプライ・オア・エクスプレイン」という枠組みを採用している点を意識しています。特に、「エクスプレインすることを躊躇する傾向も見受けられるが、形だけコンプライするよりも、コンプライしていない理由を積極的にエクスプレインする方が、評価に値するケースも少なくない」との指摘が当初からなされている(1)ことも踏まえておきたいと考えています。

そうは言ってもパッシブ運用を行う機関投資家や議決権行使助言会社がコンプライを一律に求めてくるという声も聞こえてきそうですが、まさに、どのようなエンゲージメントが行われているのかの実態把握が重要になってくると思います。

また、コーポレートガバナンス・コードにおいては、当初より、上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきであるとされています。この点も改めて意識していているところです。

おわりに

コーポレートガバナンス改革について、業績等で目に見える効果が直ちに出ないからといって、歩みを止めるのはもったいない、むしろ、効果を出すための取組みを工夫し実践していくことが有益ではないかと考えています。

取締役会全体の実効性評価に当たっては、取締役会メンバー一人一人による率直な評価がまずもって重要とされています(2)。これにならって、コーポレートガバナンス改革に対する取締役の皆さまの忌憚ないご意見をお伺いしたいと考えております。ご協力よろしくお願い申し上げます。

※本文は、筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する組織の見解ではありません。

NOTE

  1. 「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況と今後の会議の運営方針」スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議意見書⑴(2015年10月20日公表)
  2. 「会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上に向けた取締役会のあり方」スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議意見書⑵(2016年2月18日公表)
廣川斉氏

廣川斉Hitoshi Hirokawa
金融庁企画市場局 企業開示課長
金融庁において金融機関の監督、金融制度の企画立案、人事、予算、大臣秘書官業務などに従事。2021年夏から現職。コーポレートガバナンス改革、ディスクロージャー制度、会計監査制度等を担当。

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