金融庁は、これまで、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの策定・改訂等を行い、コーポレートガバナンス改革の取組みを進めてきました。
こうした改革の効果については、コーポレートガバナンス・コード再改訂(2021年)後に実施した中間点検や、海外投資家を含むステークホルダーから幅広く意見を聞くために設置した「ジャパン・コーポレート・ガバナンス・フォーラム」を通じて寄せられた意見を踏まえ、検証して参りました。
検証によれば、企業価値向上のためには取締役会の機能を高めることが重要との考え方が多くの企業で共有されたとの評価や、直ちに業績に影響するものではなくとも良い方向に向かっているとの評価が見られた一方、一部の分野では進捗のペースが遅いとの指摘や、個別の課題に関する指摘も見られたところです。
具体的には、特に以下の課題が指摘されました。
企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を促進する観点からは、上記の課題解決に向けて、形式的な体制を整備するのみではなく、実質的な対応を進展させることが重要です。
また、コーポレートガバナンス・コードの更なる改訂については、形式的な体制整備に資する一方、同時に細則化により、コンプライ・オア・エクスプレインの本来の趣旨を損ない、コーポレートガバナンス改革の形骸化を招くおそれも指摘されています。
このため、これらの課題については、企業と投資家との建設的な対話や、企業と投資家の自律的な意識改革の促進を通じて、個別企業ごとの課題が深掘りされることで、実情を踏まえた実効的な解決策が検討されていくことが望ましいと考えられます。
本年4月19日に開催された「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(1)(以下「フォローアップ会議」)においては、こうした考え方や、今後実施すべき施策等について議論が行われました。
フォローアップ会議における議論を経て、本年4月26日、「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」(以下「アクション・プログラム」)を公表しました。(2)
アクション・プログラムは、収益性と成長性を意識した経営の促進やスチュワードシップ活動の実質化、独立社外取締役の機能発揮、法制度上の課題の解決など、コーポレートガバナンス改革の実質化に向けた取組みについて、とりまとめております。また、各コードの改訂時期については、従前の見直しサイクルにとらわれることなく、適時に検討することとされております。詳細については、金融庁のウェブサイトに掲載しておりますので、ぜひご覧ください。
今後は、アクション・プログラムの各施策を順次実施しつつ、その実施状況について検証し、必要に応じて追加的な施策を検討していくこととしています。引き続き、東京証券取引所をはじめとする関係者とも連携しつつ、コーポレートガバナンス改革の取組みを進めて参ります。
アクション・プログラムにおいては、「法制度上の課題の解決」として公開買付制度・大量保有報告制度・実質株主の透明性のあり方について検討を進めることが記載されています。
この点については、本年3月2日開催の金融審議会総会・金融分科会合同会合において、市場の透明性・公正性の確保や企業と投資家との間の建設的な対話の促進等の観点から、公開買付制度・大量保有報告制度等のあり方について検討を行うことが諮問されました。
本年6月5日には、第1回「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」を開催し、公開買付制度・大量保有報告制度等の見直しに向けた議論を開始しております。
今後は、下記をはじめとした具体的な検討課題について議論を進める予定です。
本ワーキング・グループにおける審議を踏まえ、必要な法案の早期の国会提出を目指します。
今後も、取締役をはじめとする関係者の皆様の幅広いご意見を伺いながら、コーポレートガバナンス改革に関連する取組みを進めて参ります。引き続き、ご指導よろしくお願い申し上げます。
谷口達哉Tatsuya Taniguchi
金融庁企画市場局企業開示課
企業統治改革推進管理官
2009年弁護士登録。TMI総合法律事務所の弁護士として企業買収・コーポレートガバナンス等を担当。2013年から2015年まで金融庁総務企画局企業開示課に勤務し、主に公開買付制度・大量保有報告制度・コーポレートガバナンス等を担当。2015年TMI総合法律事務所に復帰した後、2022年7月より現職。