不祥事対応のリスクマネジメント~第三者委員会・調査委員会とガバナンス

2024年3月11日

石田惠美(BACeLL法律会計事務所代表 弁護士・公認会計士)

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.14 - 2023年12月号 掲載 ]

不祥事と調査委員会

不祥事、といえばすぐに調査委員会が立ち上げられることが増えてきた。2023年10月の適時開示だけでもSOMPOホールディングス、大日本塗料、サワイグループホールディングス、イメージワンなど枚挙に暇がない。

ご承知のとおり、調査委員会にもいろいろあり、基本的に「事実調査」「原因分析」「再発防止策の提言」を行うことは共通だが、大別すると以下3つとなる。

①社内調査委員会

社内の役職員によって、委員会形式で組織的に行われるものである。弁護士や公認会計士等の専門職をアドバイザー等に加えることもある。必ずしも開示を前提としておらず、目的に即して費用や時間をそれほどかけずに、機動的に行うことができる。他方、独立性に欠け、客観性が必ずしも担保されず、ステークホルダーへの説明責任や企業の信頼回復の面では弱い印象が否めない。

②特別調査委員会・外部調査委員会等

外部の弁護士等や有識者、社外役員等によるものである。社内の役職員が入ることもあるが、外部委員を中心に行われ、費用や時間はかかるが、客観性、妥当性を期待できる。③に準じる場合は、ステークホルダーへの説明としても有用であるが、③のようなガイドラインはなく、調査の質は千差万別である。

③第三者委員会

②と区別されずに称されることがあるが、本来②とは異なり、日本弁護士連合会「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に即し、独立した委員のみで、中立・公正で客観的な立場から徹底した調査の上、事実認定・評価、根本的な原因分析を行い、再発防止策等の提言を行うものとされる。企業側にも全面的な協力が求められ、費用も時間も相当程度かかるが、しっかりと行われれば、ステークホルダーへの説明や企業の信頼回復にも資する。

不祥事発生時の調査とガバナンス

不祥事は、ガバナンスの機能不全により発生する。ゆえに、日頃からのガバナンスの確立が必要であるが、残念ながら起きてしまったときは、むしろガバナンスの機能回復のチャンスと捉え、事実を的確に調査し、原因分析と実効性のある再発防止策を策定することが重要となる。

しかし、実際はどうか。調査委員会の形を作り、弁護士等の第三者を入れたことで満足してしまい、内容が不十分なまま終わらせていないか。近時、不祥事案について調査を行ったものの、事実を発見できず、あるいは発見しても表層的で原因分析も再発防止策も不十分なまま終わらせてしまい、結果、さらに大きな不祥事へと発展していく例が後を絶たない。

適時開示等で公開されている調査報告書も少なくないが、遺憾ながら物足りなさを感じるものも散見される(なお、久保利英明弁護士らによる第三者委員会報告書格付け委員会(http://www.rating-tpcr.net/)における個別評価コメントは示唆に富む)。

不祥事発生時の調査のポイントについては、日本取引所グループの「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」(以下「JPXプリンシプル」)にも、4つの原則が示されている。特に、調査にあたっては具体的には、下記の点に留意しておく必要がある。

  1. 調査方法の選択・選任する委員の適切性
  2. 調査計画(調査期間、調査体制、調査スコープ、調査手続(資料、ヒアリング対象、デジタルフォレンジック等)の適切性
  3. 調査にかかる社内体制の確保
  4. 調査報告書の十分性(事実認定の深度・説得力、根本的な原因の解明、結果・評価の妥当性)
  5. 実効性ある再発防止策等の提言
  6. 情報開示の迅速性・的確性
  7. 再発防止策の迅速な実行、フォローアップ

以上については、経営陣はもとより、社外役員も十分に理解し、ガバナンスの機能回復に資する調査であるか、初動から十分に留意していく必要がある。

たとえば、第三者委員会方式を採る場合はもちろん、特別調査委員会等方式の場合でも、できるだけ日弁連ガイドラインや、JPXプリンシプルに準じて、質の高い調査が行われるよう求めるべきである。委員構成も、弁護士等だけでなくその分野に精通した者の要否も検討すべきである。

また、調査計画が妥当かは、事案の質的・量的重要性や隠匿リスクのほか、当該不祥事が発覚した端緒にも目を向けるべきである。たとえば、クレームや内部通報が端緒の場合、社内では、言葉尻や背後の人間関係に囚われ、本質的な根深さに気づかず表層に留まるリスクがあり、社外から俯瞰して見ることも重要である。

また、調査に必要十分な資料や証言を得るには、ロジ回りを担う社内担当者の役割も重要である。適切に秘密を保持し、社内の理解や支援を得ているか、心理的安全性が確保されているか等、社外の目からモニタリングしておくことも大切である。

調査報告書の受領時も、ガバナンスの機能回復の観点から十分なものか、特に具体的で真に実効性のある再発防止策が提言されているか、実際に迅速に実行できるかという観点からも読み解くことが重要である。人事処分やルールの徹底、研修の実施等という表層的な提案だけでは不十分である。

結びに

こうした実を伴う調査ができるか否かは、何よりも、経営トップが真摯に向き合い、調査に率先して協力する姿勢を示し、忖度なく、責任を明確に果たす覚悟をもって取り組む姿勢であるかにかかっていることは言うまでもない。とはいえ、現実はかなり辛い作業が続く。社外役員としても、調査の質を問いながら、会社が真の企業価値向上に向かうように行動することが大切であろう。

連日不祥事の報道が続く中、今一度、ガバナンスの機能回復に資する調査のあり方を議論すべき時期に来ていると思うこの頃である。

石田惠美Emi Ishida
BACeLL法律会計事務所代表
弁護士・公認会計士
1993年公認会計士登録。中央新光監査法人勤務後、1997年弁護士登録(東京弁護士会)。武蔵野銀行社外監査役、同社社外取締役、東京ドーム社外取締役、イオンリテール社外監査役のほか、現在は東洋証券社外取締役、損害保険料率算出機構理事等を務める。

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