コーポレートガバナンスのバージョンアップ

2021年9月14日

江原伸好(ユニゾン・キャピタル株式会社 共同創業者)

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.7 - 2021年8月号 掲載 ]

我が国において、コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードが整備され、ガバナンス改革の動きが本格的に始まって久しい。それ以降コードは改訂され、着実に進化してきている。社外取締役の登用も一般的になり、その数も年々増えてきている。

一方で、取締役会における議論の質の向上は依然大きな課題として残っている。形式を満たすことだけに拘り、ガバナンスの実質的改善が未達成なケースが多いのではないだろうか。この問題を解決するには、社内外を問わず全取締役の能動的な関与が不可欠だ。

私の印象では、多くの社外取締役の方々がまだまだ取締役会への関与について受け身の姿勢を取られているように見受けられる。社外取締役として有効な貢献のしかたは、取締役会の議題設定および討議事項の策定に積極的に関わることである。一般的に、この点は議長や取締役事務局の責任の範疇と理解している取締役が多いと思われるが、「アジェンダ・シェイピング」は取締役会の有効性に多大な影響を与えることは、私の社外取締役としての経験、特にプライベート・エクイティを通じた投資先への関与の経験から明白だ。外部の視点をもたらすという観点からも、社外取締役にとって最も貢献しやすい方法である。能動的な関与によって、参加者全員が議論に向けてしっかりと準備をし、どこに成長の機会とリスクが存在するかをよりよく理解すると、取締役会の質の向上が期待できる。

社内取締役の貢献が限定的だという話もよく聞く。事前の社内における協議などを通じてすでに意見表明されているというのがその理由だ。株主から任命された取締役のひとりとして、全社的な視点から建設的な意見を発信すべきだろう。ただの数合わせのために存在する取締役は不要である。

コーポレートガバナンスを論じると、往々にして形式を議論する傾向が強いが、今こそコーポレートガバナンスのバージョンアップを図る時である。取締役会に魂を吹き込むためにも、いかにして取締役会を活性化させるか、そしてそれに社内外全取締役がどう貢献できるかが問われている。

ユニゾン・キャピタル株式会社
共同創業者
江原伸好