パンデミックがまだ終息しない中、ロシアによるウクライナ侵攻が起き、グローバルサウスの動向やエネルギーに関連する中東の思惑、そして米中デカップリングによって私たちは揺れ動かされ続けています。米国内でも民主党と共和党の分断が深刻化しており、気候変動への対応も次期大統領選挙の結果次第でどのように変わるかは不透明です。グローバリゼーションの進展の中で、このような大きな環境変化にさらされ、企業経営者は舵取りを担う役割を果たしています。そのため、地政学的な知識は必要不可欠です。
地政学は元々、政治や経済、軍事の視点から国家間の力関係や地域の紛争、領土問題、同盟関係などを地理的要素と歴史を組み合わせて分析する学問です。今回のウクライナ問題においては、ロシアとウクライナとの地理的な関係や歴史を知ることによって、紛争の要因を理解することができます。日本の場合、島国という地理的条件から、国境を接する国との摩擦や脅威を肌感覚で理解するのは難しい側面もあることは否定できません。一方、ヨーロッパなどは歴史的に領土問題を抱え続けており、EUの結成や統一通貨導入はその一つの回避策と言えます。同様に、半島国家(例:朝鮮半島)がどのような困難な歴史をたどってきたかを見れば、半島が抱える地政学的な問題点が理解できます。地政学的な視点を深めることにより、どこで発生するかわからないリスクに備える必要性を痛感しています。これまでの出来事は予想外と言われてきましたが、もはや予想外というだけでは済まされません。中国による台湾への進攻リスクが世界経済に与える影響の大きさは、半導体生産の偏在から容易に想像できます。米国はこれに備えて半導体生産を国内にシフトさせていますが、まだ時間がかかります。日本も国内シフトに取り組み始めたばかりです。
* 茂木誠『ニュースのなぜは地政学に学べ』
(SB新書、2023年4月)を参照
三井化学株式会社 取締役会長
淡輪敏