SPECIAL TALK:識者に聞くコーポレートガバナンス vol.1 久保利英明×高口綾子

SPECIAL TALK:識者に聞くコーポレートガバナンス vol.1 久保利英明×高口綾子

2023年1月16日

久保利英明(日比谷パーク法律事務所 代表弁護士)
高口綾子(社会保険労務士法人リンク 代表社員)

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.11 - 2022年12月号 掲載 ]

経営者を律するのがガバナンスの目的

コーポレートガバナンス改革に最前線で関わってきた識者へのインタビューシリーズ。第1回は、ガバナンスのみならず、反正義と戦う活動で著名な久保利英明・弁護士です。

先生は、経営者をいかにコントロールするかがガバナンスであり、インテグリティを持ったトップを選ぶのは社外取締役であり、会社の正義は社外取締役がCEOに実行させるものだと言います。そして経営者は会社が儲かるか儲からないかという前に、会社に公器たりうる資格があるかを考えるべきであり、その際には、ガバナンスが役に立つと強調しています。

高口 本日はよろしくお願いします。先生のYouTube番組「クボリチャンネル」や著書を拝見してきました。先生は会社主導型株主総会や福島第一原子力発電所事故の損害賠償請求、1票の格差是正訴訟など、長らく正義の実現のために活動されていますが、最初にコーポレートガバナンスへのお考えをお聞かせください。

久保利 コーポレートガバナンスは企業統治と訳されます。しかし、これはまるで主客転倒で、社長が会社を統治すると誤解されます。経営者CEOをいかにコントロールするかがガバナンスです。ガバナンスされない人が社長をやると、横暴の極みになる。インテグリティを持った人物で、きちんとバランスがわかり、自分は間違えていないかとガバナンスを受け入れる人格の人をトップに選ぶべきです。

トップを選ぶのも本来、社外取締役です。会社の正義を社外取締役がCEOに実行させる。それがガバナンスです。何度でもいいますが、コーポレートガバナンスの主体は、社外取締役中心の取締役会です。

取締役会が社長以下の業務執行者を統制することなのです。社長は選定、統制、解職される客体です。会社で社長が一番偉いという誤解の下で「企業統治」を用いると、ガバナンスの主体と客体が逆になってしまいます。

ガバナンス不全は、体制と仕掛けづくりで是正する

高口 なるほど、コーポレートガバナンスとは企業統治ではなく、経営者統治であるということ。先生がコーポレートガバナンスは必要だと思われたきっかけをお聞かせください。

久保利 1997年に四大証券会社の代表取締役がみんな捕まった。その翌年、長銀は経営破綻し、様々な金融不祥事が出てきた。そういう意味で、90年代は大きな変わり目だったと思います。

僕はずっと総会屋対策をやってきて、80年代に総会をきれいにして、普通の株主が参加できるようにしようとしました。そんなときに、日本の会社がこんなに利益供与をしているのは、コーポレートガバナンスが効かないからではないかと気がつきました。

先日、クボリチャンネルで、日本取締役協会前会長の宮内義彦さんと対談しました。宮内さんと僕が初めて会ったのは今から30年ぐらい前の話です。僕は弁護士になってまだ20年でしたが、宮内さんのお話を聞いてガバナンスは面白いなと思った。当時、日本興業銀行頭取だった中村金夫さんが勉強会を始めて、1994年にガバナンスフォーラム第1回会合が開催されました。このフォーラムの中心になったのは、心ある経営者たちです。まともな経営者が当時はちゃんといました。そのうちに日本取締役協会が発足しました。これだけの長期にわたりガバナンスを本気でやってきたのは、日本取締役協会だけだろうと思います。

高口 総会屋との癒着の背景に、日本企業の体質や構造そのものがまっとうでないことが問題であり、コーポレートガバナンスを導入せねばと気づかれたのではと思います。最近のガバナンスに関することがらで、気になることがあればお聞かせください。

久保利 気になることばかりです。大企業が不祥事を毎月のように起こしている、病んでいますね。

僕は世界中旅をするのが趣味で、170カ国に行きました。大きなテーマが来たときに、日本以外の大国はちゃんと対応する。コロナに対しても、科学的に分析、反省・総括をして、間違いがあれば直そうとする。

日本は3年前と何も変わらず愚直にマスクをつけ飲食を控えています。あまりにも科学的分析や反省・総括がない。日本だけが、今日は何人かかりました、何人死にましたと恐怖心をあおります。持病で亡くなっても、その人がコロナに罹っているとコロナで死んだことにされる。10万人単位あたりで数えるのではなく、総数だけ出すので、今でも死亡者数が急に増えていることになっています。

どれくらいの人が飲食店でコロナに罹って亡くなっているのかというデータも示さずに、ただ酒を出すな、店を閉めろと、飲食店いじめみたいなこともした。何の合理性があってやったのか、いまだに説明がない。

統計学のいろはも知らないで疾病データを扱う人たちが、科学的であるはずがない。コロナ時の日本の立ち居振る舞いは、全部ガバナンス不全に通じている気がします。

高口 たしかに、今回のコロナは全世界で起きたことで、感染症対策については、それぞれの国の対応能力が露呈した感も否めません。

久保利 企業不祥事がなぜこんなに起きるのかといえば、企業で執行する人たちが、自分の部署だけのことを考えてインチキをしたり、逆に会社に迷惑をかけちゃいけないといってデータ偽装をしたりしているからです。データ偽装がなくなるように、体制や仕掛けを作ったら、不祥事はもっと減るはずです。

日本のよくないところは、①嘘をつく、②隠蔽をする、そして③開示をしないで逃げることです。日本の偉い人にはその3つしか対策がない。そうすると根本が治らない。何か起きればお飾りの第三者委員会を立ち上げて、最後は企業風土や文化に逃げてしまいます。遡っていくと30年前からそんな不祥事ばかりです。そんなことを繰り返していたら、どこに原因があるかも分からないでしょう。是正もできません。

久保利氏と高口氏

間違いは受容して、自分も会社も変わる

高口 社会保険労務士である私が、特に印象に残っているのが、2014年のゼンショーホールディングスすき家事件です。先生は第三者委員会で、長時間労働・深夜営業時の1人サービス体制で行うワンオペなどの劣悪な労働環境の問題点を指摘され、企業体質まで変えていかれた。どのような経緯だったのでしょうか。

久保利 同社では25%を持つ大株主でファウンダーの会長がワンマンでした。しかし、会長自身が、俺が悪かった、ワンオペ等はやめようと反省をされて、新しい経営者に生まれ変わったのです。全国2000店舗全部に本社から号令をかけるのは無理なので、地域ごとに7つか8つに会社を分け、それぞれの判断を尊重することにしました。目が行き届くので、人員配置を変えましょうとか、この地域で売れる味にしましょうと、いろんなアイデアが出てきて、従業員たちもモチベーションを持ってやれるようになりました。働き方もワンオペはきついので、人が足りない時間は営業を止めようと、こういう決断を先頭に立ってやるようになった。

僕はそれが経営だと思う。ゼンショー第三者委員会の報告書では、「現代の蟹工船」とまで書きましたけれどね。思い切り叩いて厳しいことを言いましたが、経営者が分かりましたと反省しました。それに一番価値がある。僕は会長と一対一で話をして、本当のことを言いました。会長はすごく体力がある方で、ベンチプレス百何十キロを簡単に上げるのです。最初の何百店舗までは、体力も執念も同じようなすごい人ばかり集まり、ワンオペでこなしてきました。だけどそこから先は、そうはいかないし、時代も違う。そのことが分かり、俺が間違えていたと、本当に潔く認められて、すぐ直されたのです。

高口 社会に対して恥ずかしいことをやっていないか、間違っていたのならそれを真摯に受け止める、その気持ちが大切なのですね。

久保利 受け止めが第一です。受容して自分も会社も変わらなくてはならない。そうすれば株価も急速にV字回復する。大株主の会長が心を入れ替えてやり直しますと言った瞬間に会社は変わったのです。先延ばしや逃げ回ったりして会社を変えないと、ますますまずくなる。他の会社はどうしてそういう勇気を持てないのか、と思います。

高口 先生のご本にあった3Yですね。まず「勇気」が出ましたね。

久保利 従業員に対しても顧客に対しても「優しい心」を持ち、「柔らかい頭」で進める。その改革を「勇気」を持ってやりましょうという、この3つのYが、どんな仕事をするにも大事なことだと思います。

社外取締役は株主の代表である

高口 クボリチャンネルでは日本取締役協会の冨山和彦・新会長との対談もありました。ガバナンスとは社長をどう統括するかであると、先生がおっしゃっていました。社外取締役も多数お務めですが、心がけていることを教えてください。

久保利 私が、最初に社外取締役になったのは野村證券(その後の野村ホールディングス)で、もう30年近く昔です。僕の役割は、普通の株主の代表です。オーナー家の代理人でも、創業社長の代理でもない。少数株主が何を考えて、この会社に何を求めているかを探すのが、社外取締役の基本です。言う以上は勇気を持って、断固として分かりやすく厳しいことを言う。やってくれない時には私が辞めるしかない。その迫力があると、みんな聞いてくれるのです。もちろん、議論にはなりますよ、でもこういう理由でこうすべきなんじゃないかといえば、やはりみんな聞いてくれます。

マルハニチロで、従業員が農薬をピザの生地に入れて大変なことになった事件でも、第三者委員会の委員をやりました。マルハとニチロが合併してホールディングスを作り、雪印から買った孫会社に当たるアグリフーズでのガバナンスの問題でした。社員と役員のみなさん自身で対策を考えた方がいいと、僕は言いました。するとホールディングスをやめ、自ら事業をやりながら、子会社をマネジメントもする事業持株会社にしました。その下に子会社もある程度大きくまとめて、そこがさらに孫会社をコントロールするという体制を会社が考えたのです。

再発防止策や内部統制体制は、会社と第三者委員会で一緒になって作りました。8~9人いた第三者委員会で弁護士は僕1人だけ。食品ジャーナリスト、消費者代表の生協役員、フードディフェンスのプロの大学教授などが入って、皆で議論をしました。いろんな切り口があって、第三者委員会はああいうのが正しいと思いました。食品の問題だったら、安全のプロがいろんな角度から知恵を出すことが必要です。

日本取引所グループ(JPX)でシステム障害が起きて、丸一日、新聞の株価欄が空欄になった件では、社外取締役4人だけで第三者委員会を作りました。JPXの場合には取締役14人中9人が社外と圧倒的過半数がいたからこそ、すごい報告書ができたのです。

会社そのものを揺さぶって変えるのだから、第三者委員会や社外取締役に丸投げもダメです。みんなで議論して改革をしていく、その着火薬・火種になるのが社外取締役だと思います。それができないと第三者委員会を作っても、会社のあり方を変えろといえない。

そもそも業務執行者を統括するのが取締役会の役割だと思えば、第三者委員会だって取締役会で社外取締役が旗を振って作らないとダメです。根本は普通の株主がどうしてほしいかを察知して、それをきっちりやり、CEOをコントロールする。これができるのが本当の取締役会ではないかと思います。

高口 社外取締役も企業不祥事について知らなかったでは済まされない、不正への責任がありますが、社外取締役として先生が取締役会に入っている時に、不正に対する、何か空気感や肌感覚があるかと思うのですが、先生だからこそ察知するものはあるのでしょうか。

久保利 僕は弁護士のスタートが倒産弁護士で、10年間会社が潰れ、それを立て直すことばかりをやってきたので、肌感覚は多少あるかもしれません。根本的には、この人の説明は変だぞと思い、気が付きます。時々によって言うことが違う、変化する。よい方向への変化ではなくて、その場を取りつくろう。そういうことがあると変だなと思います。

僕が社外取締役でいた会社では不祥事はめったに起きなかったのですが、JPXのシステム障害の時は、さすがにこれはまずい、何かしなきゃと思いました。その時には業務執行者の偉い人達を調査メンバーから外しました。なぜこんな体制になったのかといえば、その人達の責任に決まっているからです。その人には原因究明は無理です。現場で一生懸命やっている人達は、本当にこれでいいのかと思いながらやっているので、知恵がいくらでも出てくる。なあなあでやっていると、タイミングを失い、やるべきことをやれないのです。先延ばしが一番ダメですね。

企業はよき市民として行動する

高口 ガバナンス改革も形式から実質への進化が求められています。今後の日本企業に求められるアクションについて、どのようにお考えですか。

久保利 形ばかり整えているように見えますね。実際に社外取締役は誰が選んだのかといえば、偉い人の友達だとか、よく知っているとか。そんなふうだからダメなのです。形式ではなくて実質です。アクションをとるのは生身の人間だからです。

とにかく座っているだけで怖い人を連れてこいと言われたそうで、僕は野村證券に入りました。それでも問題はあって、今度は久保利さんに分からないように現場が隠す、あるいは内部統制をやっている人達が隠す。そうなると誰にも分からなくなります。

野村證券の増資インサイダーの事件がありましたが、あれはたぶんトップも誰も知らなかったと思います。インサイダーの情報が漏れないようにしていても、営業部の人が忍び込んで、次はどの銀行か、赤い銀行か青い銀行かといって、情報を取っていく。もちろん出入りも禁止だし、情報は漏らさないのですが、なんとなく同期の社員だからと、情報がいってしまったかもしれない。内部統制システムで、情報が全部吸い上がるという風通しのよい会社にしておかないといけません。怖い人の耳に入らないようにと現場に動かれたら、誰も防げないわけです。

その時も、内部通報は大事だから社外役員が請け負った方がよいだろうと考え、僕は内部通報窓口の担当になった。その僕にも上がってこないまま悪いことをしていた。だから金融庁も怒ったのです。

隠しても絶対にばれるような体制をなぜ構築できなかったかとの思いが、僕自身あの事件にはあります。

高口 内部通報窓口が久保利先生ということで恐れ多く、かえって窓口に通報できなかった、つまり機能していなかったというわけですね。

久保利 機能していなかった。反省しています。内部通報窓口でも、通報する人が早くいった方が得すると思えるような、受け皿として歓迎されることをやらなければいけない。僕がその時しみじみ考えたのは、通報したって社員に何の得もない。仮に自分の身分が隠せてばれないにしても、どうせ詮索が始まる。そうではなくて、通報したら会社から表彰される、社長から感謝されるぐらいの、通報者のメリットを考えないといけないですね。

高口 今はまだ通報者の秘匿止まりですね。

久保利 会社が助かったのだから、報奨金を1億、2億円あげましょうといったらもっと通報はくるかもしれません。米国では現実に証券取引委員会(SEC)がお金をくれるので、たくさん通報がきます。あるいは社長がこういう通報を受けたので、早々に手を打つことができました「ありがとう」と、みんなにイントラネットでメッセージを出したら、やった人は感謝されていると分かるでしょう。そういう何かプラスのこと、メリットのあることをやらないとまずいなと思いました。

会社の肝になるのは、働いている人だから、内部通報で早く知らしめることが会社を救うことになる。その時に社外取締役が必ず自分を守ってくれて、社長に対してそのことを感謝せよと言ってくれる。お目付けの取締役会があり、社外取締役がしっかり機能する。社長もよい情報をくれてありがとう、これでわが社は救われた、となる。そういう気構えが必要でしょうね。

高口 最近、環境や社会、人権や多様な価値観に配慮して社会の公器、市民としての役割を企業が果たすことが重要となっています。企業法務の視点から、経営者が留意すべきポイントをお聞かせください。

久保利 企業の経営者が預かってマネジメントしているのは、会社、すなわち世の中の公器です。会社が儲かるか儲からないかという前に、この会社は、公器たりうる資格があるだろうかと考えるべきです。

渋沢栄一さんの『論語と算盤』では、論語がまず優先、倫理をしっかりやっているかが利益より先になっています。会社の経営者は、天地神明に恥ずかしくないことをやっているというインテグリティを持つこと、公器を預かってマネジメントしている認識が大事です。これが崩れたら、日本の資本主義も民主主義もみな崩れます。企業はよき市民でなければいけない。

経営者は、ユーザー、株主、従業員に恥ずかしいことをしていないかをいつも考えるべきです。原理原則、世の中の正しい道、公器たるべき姿を守らないで、インチキやデータ偽装をして儲かっても、それは何の価値もない。まさに『論語と算盤』で渋沢さんが言っていることが真理だと思います。

そのことをもう一度経営者・独立取締役には考えていただきたい。その際には、コーポレートガバナンスが役に立ちます。おっかないご意見番がいっぱいいて、皆が社長しっかりしてくださいよと議論する。会社を潰してはダメだけど、利益が上がることが一番重要なわけではないような気がしますね。

従業員が喜んで働き、顧客みんなが、ありがたいよいもの作ってくれたと喜び、株主も配当をもらって株価も順調に右肩上がりになっていますねという経営には、経営の根幹のミッションやパーパスをしっかり考え、それを実行することがポイントだと思います。いうのは簡単ですが、当期利益に足を引っ張られることもあります。とても大変ですが、やる係に選ばれた自分を誇りに思うべきです。

会社のパーパス、ミッションをしっかりやるために、夜も寝ないで考え、そうすると社長を6年もやると疲れてしまう。そこでよい人を後継者に選ぶ。見ていると、最近はなんとなく小粒になっていきますね。そうではなくて、こいつはすごい俺より大物だという逸材を育て上げて、継承していったら、よい会社がきっとできると思います。

高口先生もぜひそういう人材を育成するように、社外取締役として取締役や指名委員会でがんばってください。

高口 はい、承知しました。公器たりうる資格がある会社として価値を高めていくために、社外取締役として少数株主が何を考えて会社に何を求めているかを探し、そのためにコーポレートガバナンスの本来の意味である経営者統治を行っていけるよう、自分の役割を全うしていきます。本日はありがとうございました。引き続きご指導よろしくお願いいたします。

久保利英明氏

久保利英明 Hideaki Kubori
日比谷パーク法律事務所 代表弁護士
日本ガバナンス研究学会会長。1971年弁護士登録。2001年度第二東京弁護士会会長、日本弁護士連合会副会長。現在、ソースネクスト社外取締役、第三者委員会報告書格付け委員会委員長、一人一票実現国民会議共同代表等を務める。『経営の技法』等、著作全79冊。

高口綾子氏

高口綾子 Ayako Takaguchi
社会保険労務士法人リンク 代表社員
2008年より開業。社会保険労務士として、ダイバーシティやワークライフバランス等多様な働き方に対応できる人事制度の構築、人事労務面からのコンプライアンス経営推進に従事。現在、株式会社ラウンドワン社外取締役、大阪府社会保険労務士会広報委員会副委員長を務める。

撮影:淺野豊親