TOP RUNNER:企業経営の改革者に聞く vol.3 松﨑正年×太子堂厚子

TOP RUNNER:企業経営の改革者に聞く vol.3 松﨑正年×太子堂厚子

2020年7月13日

松﨑正年(コニカミノルタ株式会社 取締役会議長)
太子堂厚子(森・濱田松本法律事務所 パートナー 弁護士)

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」2020年4月号 掲載 ]

取締役会における監督とは
取締役会は戦略的な監督を

企業経営の改革に取り組むトップランナーに、日本企業のあり方をうかがうインタビューをシリーズでお届けする第3弾です。今回のゲストは、日本取締役協会副会長でもあるコニカミノルタ株式会社の松﨑正年取締役会議長です。松﨑さんは経営の監督と執行をラグビーのヘッドコーチとキャプテンの役割に例え、それを実践してきた経営者です。聞き手の「ボードの女神」は、太子堂厚子さんです。

太子堂:私は弁護士として企業のコーポレートガバナンスに携わることも多いので、コニカミノルタのコーポレートガバナンス報告書などの開示情報もよく拝見していますが、随所でガバナンスへの本気度が感じられ、受け売りではない会社自身の思想がとても良く表現されていると感じています。

そういう"コニカミノルタらしさ"を追求するカルチャーがどのようにして生まれたのかに大変興味があります。まず、コニカとミノルタが統合して、我が国で早々と委員会設置会社を採用された背景をお聞きしたいです。

松﨑:社長を退任して会長になった、当時の当社の経営者が、自分が社長のときにチェックされていなかった、社長といえどもチェックされるというのが本来あるべき姿ではないかと思ったそうです。そして自ら監督側に回ることを決意し、監督の立場で設計してできたのが当社のコーポレートガバナンスシステムです。その方は退任された後、当社の財団法人のトップを務めた際、当時のガバナンスでは駄目だと判断されました。きちんと理事会と評議員会の役割を分けないといけないし、当社出身者だけでなく社外の人がいるべきだとしてガバナンス改革をやりました。

太子堂:監督と執行の分離の発想を経営に取り入れたのですね。当時の会長さんの個人的なお考えが新たなコーポレートガバナンスの仕組みの導入の契機だったということですか。 松﨑:その話を私はあとから聞いて、さもありなんと思いました。それは、社長をやっていると、やはり意思決定がこれでいいのかと思うことがあるわけです。ところが社内の役員会では面と向かって余程のことがない限り制止する人なんていないわけです。

トップにとって会社経営は、いろいろなことがあって難しい判断もしなければいけない。そういうときには、ちょっと違っていたら「違っている」といってくれた方が間違いも少なくなると思います。あるいは「これでいいんじゃないの」といってもらえれば、自分の考えの妥当性を再確認することになります。従って、良いガバナンスシステムをつくってくれたと私は思い、社長のときにもこの体制を大事にしようと思いました。退任した後、前任者と同じように私は監督側に回りましたが、監督側としてもこのシステムを大事にしようという思いでやってきました。

太子堂:松﨑さんが社長になられたときはすでに、社長自身がチェックされる仕組みができていて、良い仕組みだとお感じになったということですが、一般的には、経営トップが監督されることについて、本音のところでは、経営に口を出されたくない、社外の人間に何が分かるのかと思っているケースが多いように思います。

コニカミノルタでは、経営統合後にコニカとミノルタの創業事業から撤退して思い切った事業転換を図るなど、危機感をもって経営の舵取りをされていたからこそ、監督される仕組みが必要と思われたのでしょうか。そういう厳しい環境に置かれていたからこそ、経営トップから進んで監督されることをよしとしたのかと、勝手に想像しましたけれども、それは関係ないですか。

松﨑:それもあるかもしれません。監督されるということは、執行と監督が分かれており、意思決定は、委員会設置会社においては執行側に委託されてもいい。当社もそのようにしています。ですが、意思決定を委託されていても、説明はしないといけない。例えば今、こういう事や改革をやろうと思っている、あるいはこういう投資やM&をしようと思っている。それらについてどういう状況判断をしたかをきちんと説明しないといけない。しかし、社内であれば、その部分がいい加減でも良くなってしまうのです。

松﨑氏

堂々と説明できる意思決定を

太子堂:社内であれば、あうんの呼吸で分かってもらえる。

松﨑:しかし、社外取締役が入っていると、過去の事情も分からないし、あるいは社内や業界の常識が通用しないので説明しないといけない。それはいずれ、株主さんにも理解してもらわないといけない。その前哨戦を取締役会でやっているようなものです。

その時の状況判断が妥当なのかどうか、意思決定するにしても何か思慮が足りないことはないのか、リスクをちゃんと見ているのか、そういうことのチェックになるわけです。社外取締役に説明をすることによって不十分であれば、「そんな説明じゃ足りない、ここのところを具体的に説明してくれ」という質問がくる。あるいは、「良いと思うが、やるうえではこうした配慮が必要だ」という意見もいってもらえる。それはこちらにとっても、プラスになる。説明をしっかりとしなければいけないことが、キーなのかなと思います。

太子堂:日本では近年急激に社外取締役が増えていますが、社外取締役が経営者に緊張感を与えるまでに至っていない会社もまだ多いのかな、という実感があります。

コニカミノルタが早々と緊張感のあるボードを実現されたというのは、社長といえどもチェックされるべきという本気度があったから、しかるべき人材を社外取締役に選んだということでしょうか。

松﨑:ええ。実績のある経営者クラスの人を中心に選定してきました。

太子堂:松﨑さんのご著書の中で、社長に就任されて、社外取締役が社長の経営執行能力をチェックしているとひしひしと感じ、「武士道と云ふは死ぬ事と見付けたり」という『葉隠』の一節が頭をよぎったというエピソードが書かれていて、それだけ緊張感を与えるボードというのはすごいなと率直に思いました。社外取締役に大物経営者がずらりといるなかで緊張が生まれたのですか。

松﨑:そういう取締役会で説明をするとなれば、「なんて幼稚な経営をやっているのか」といわれないように、しっかりしなければなりません。

太子堂:松﨑さんは社長時代にもハードディスクドライブ事業からの撤退ですとか、痛みのある改革もありました。

松﨑:撤退もしましたし、逆に社外取締役から「もうやめたらどうだ」といわれたものを、「これは続けさせてもらいます」といって押し返したものもあります。

太子堂:著書を拝読すると、撤退すべきものは撤退するといった、痛みを伴う思い切った意思決定を断行されていて、「持続的に成長できる会社にするために何をすべきか」という、ブレない経営の判断軸を持っておられるのが印象的でした。そういう意思決定をするうえで、監督機能を強化した取締役会は何か影響を与えたのでしょうか。

松﨑:持続的に成長できる会社にすることを出発点したのは、私自身の考えです。社長になる前に、社長に指名されて4月に就任する直前の3月の取締役会で、「持続的に成長できる会社にすることをミッションとしていきます。そのために必要なことをやっていきます」ということを、宣言しました。

今でこそ、どこの会社も「持続的成長」っていうけれども、2009年のころはあまり「持続的成長」っていっていなかった。今はバズワードになっていますけど。

太子堂氏

トップのガバナンスへのビジョンが重要

太子堂:持続的な成長と中長期的な企業価値の向上といった言葉は、皆がいうようになりました。

松﨑:私がなぜ、それが一番大事だと思ったのかというと、リーマン・ショックの直後に社長に就任することになったからです。

前の社長と一緒にというか、私も主体的に関わって中期経営計画を作っていたのです。ところが2008年の秋にリーマン・ショックが起こり、それまでの順調な業績が一変しました。

太子堂:環境が激変しましたよね。

松﨑:激変によって前提が変わってしまいましたから、その計画は意味をなさなくなりました。金融システム全体がどうなるかもわからないのですから。そのときに下手に中期計画を作るよりは、何を大事にするのだということをしっかりさせて経営をした方が良いだろうと判断したのです。

太子堂:そういうことで、お考えになったのが持続的な成長なのですか。

松﨑:はい。では、そのために何をする必要があるのかということで、まずは会社の足腰をしっかりさせる。それは環境変化があっても崩れないようにすることです。具体的には何かというと、財務体質もそうですが、品質経営力とか、新しいものを生み出すイノベーション創出力だとか、現場の力だとか、いわゆる「何とか力」というのを強くしよう、そういうことをやってきました。

太子堂:あまりにも見通しが立たないリーマン・ショック後の環境で、中長期的な視点が判断の軸になったのですね。

松﨑:その通りです。いつ厳しい環境になっても、大崩れしないようにしないといけないと思いました。

人事面の改革だとか、働く環境をどういう環境にしたらいいかというのも、すべてそこを出発点にしてきました。

太子堂:痛みのある改革を先送りせずに、持続的な成長過程で必要な事を実行する。

松﨑:その年、いい成績を出すよりは、あとになっていい成績を出してあげたほうが良いなというのが私の考えです。

太子堂:そういう判断については、取締役会も応援してくれていると感じられたのですか。

松﨑:そういうことです。納得してくれれば応援してくれますから。それなりの経験のある社外取締役が「自分だったらそうはしないけど、良いのではないですか」といって下さいました。例えば分社制をやめる審議の時、社外取締役の1人は「私の会社は分社制にしてから業績が上がった」とおっしゃいました。「だけども、今、説明を聞いて当社の事情はよく分かった。今の経営判断としては妥当だと思う」というご意見をいただいて、前に進むことができたのです。

太子堂:ご自身が社長として監督される側にいたときから、経営者が監督される仕組みには意味があるという確信を持たれていたことが、現在に至るコニカミノルタのガバナンス体制の土壌になっているのですね。

松﨑:いつも自分のやっていることをきちんと説明することを意識してやってきました。社長で監督されるときには。世の中を見ると、騒動が起こるのは、きちんと説明ができないようなことをやってしまうから、株主や機関投資家から「おかしいのではないか」と言われてしまうわけです。意思決定するのはいいけれど、ちゃんと外に向かって堂々と説明できないような意思決定ではいけません。

太子堂:良い経営者と良い社外取締役が合えば、とても良いガバナンスができるけれど、経営トップの姿勢に問題がある場合、せっかく良い社外取締役のシステムを作っても、うまくいかないこともあるかと思います。そういった社外取締役の限界を松﨑さんはどう考えますか。

松﨑:共通していえるのは、やはり経営トップが自分の会社をどういうガバナンスにしたいのかという考えをしっかりと持っているかどうかだと思います。それがあれば、そのためには取締役会の構成をこうしたほうが良い、あるいは取締役会の運営をこうしたほうが良いという具体的なアイデアが出てくると思います。出発点のところでトップがそもそもの思いを持っているかどうか。どういうガバナンスにしたいか、というビジョンを持っているかが何より重要だと思います。

私の場合も、ある考えを持ったうえで、いろいろ試みをしてきていますが、やってみてうまく機能したなと思えばそれを継続するし、まだこれではうまく機能しないなと思えば、また新たなことを考えるということをやっています。これは講演でもお話していますけれども、やろうと思って試みたことがうまく機能したかどうか、それをほかの人はどう思っているのだろうというチェックのために実効性評価をしているのです。

太子堂:コニカミノルタの取締役会の実効性評価の開示を拝見すると、毎年こだわった取り組みをされていると感じておりましたけれども、監督する側の取締役会議長になられて、監督機能を向上させるために何か取り組まれたことはありますか。

松﨑:例えば議題の選定ですね。

太子堂:監督の視点での議題を選択するということですか。

松﨑:あとはいきなり取締役会に挙げるのではなくて、その前に自由な意見交換の場をつくるとかですね。取締役懇談会と称しています。あるいはやはり取締役がそれぞれ活躍してもらわないといけないので、そのために執行兼務の取締役であれば、どういう場面で発言してもらいたいかをこちらが要求します。

太子堂:元経営トップだった人が取締役議長として監督をするというのは、当社の経営を知りつくしているという意味で最強の監督者たりうると思いますが、一方で、現経営トップが過去の経営方針を変えたいときに足を引っ張っちゃいけないという、執行側との距離感というのが大事になると思います。工夫されていること、心がけておられることはありますか。

松﨑:取締役会の運営方針というのを、私は毎年、株主総会後の最初の取締役会で向こう1年間、こういう運営方針でやっていきますということを自ら説明します。そのなかで「前社長の意思決定を変えることを、躊躇することがあってはいけない」というような意味のことを、方針として掲げました。

太子堂:ご自身で明示的におっしゃるということですか。

松﨑:社長が事業のポートフォリオを変えるとか、前に投資した案件をどうするか、思い切って意思決定をしないといけないときに、前の社長の意思決定の影響があってはいけないことを方針として、全取締役に意識してもらっています。

それから私は定期的に社長と意見交換会をやっています。お互いの情報交換です。そのなかでも、社長がこういうことに取り組んでいますというのを聞いたときには「私がやったことであっても、躊躇せずに変える必要があったら変えていいから」ということを、意識して話をするようにしています。それから実効性評価において、そういう弊害が出ていないかということをチェックしています。

松﨑氏と太子堂氏

社外取締役は「入れ込みすぎない」

太子堂:なるほど、そこを意識してチェックをしているのですね。

松﨑:執行側との距離感という点では、私の場合は、あまり入り込み過ぎないようにしています。離れすぎないようにというよりは、入り込み過ぎないようにという注意です。

太子堂:松﨑さんは社外取締役を複数されていますけれども、自身が経験されたのとは異なる事業分野の会社などにおいて、社外取締役の立場で監督する際、とくに留意されている点はありますか。

松﨑:まずは、そもそもの社外取締役の役割というか、これは当社においてもなぜガバナンスが大事だと思っているかということになるのですが、やはり経営トップのやっている方向性が違うと思ったときに、「違うんじゃないですか」ということによって、早めに軌道修正ができると思います。

それとも関係しますが、変化しなければいけないというときに、今、足元の業績が良いからなかなか先の手を打たないのは良くありません。「変化が必要じゃないですか」ということによって、変化への対応力がついてくる。それがまさに持続的成長につながるのです。

太子堂:コニカミノルタの経営での実体験に基づく、助言が役に立つのですね。

松﨑:そういう役割が社外取締役の役割なんだろうと思います。そうしたうえで、あと心がけているのは、それぞれの会社でガバナンスリスクというのは、共通なものもあるし、違うものもある訳です。例えば創業者が今の社長に影響力を及ぼしているような会社の場合、それを意識してみておかないといけません。あるいは親子上場の会社であれば、それに伴うところを注意して取締役会に臨まないといけない。あるいは国内中心の会社なのか、グローバルにビジネスやっている会社なのか、それによっても見るところが違います。

この会社のガバナンスリスクは何かを見極め、それぞれの会社での役割を果たしていくということです。繰り返しになりますが、「短期の業績よかった、もっと頑張れ」だけではなくて、今はよくてもこの事業、将来はどうなのか、そのために変わらなきゃいけないと意見するのが私の役割だと思っています。

太子堂:日本取締役協会では「取締役会のあり方委員会」の委員長をされていますが、世の中には依然として社長が取締役会の議長をやっている企業が多いです。議長と社長を分離したほうがいい理由をわかりやすくお話しいただけますか。

松﨑:取締役会が監督の場、社長がチェックされる場なのであれば、議題の選定から始まって取締役会の議事進行の主導権というのは監督側が持ったほうが自然、基本だと思います。アメリカの場合は最高経営責任者(CEO)が議長をやっても機能しているようですが、それはなぜなのかというと、アメリカの場合には、CEOあるいはせいぜい最高財務責任者(CFO)以外は全員社外取締役で、百戦錬磨のそれこそ大物も含めた社外取締役の役割を十分理解した人が社外取締役をやっている。仮にCEOが議事進行しても、「議題選定がおかしい」「もっと説明してくれ」と、ズバズバという。CEOに問題があれば解任する。それができれば、弊害は消せます。

しかし、日本の会社の場合、その弊害はなかなか解消できないことが多いと思います。日本の会社でも社長が議長を兼務するケースがありますが、取締役の多くを社外取締役として、社長が弊害を消す努力をしている会社なら、機能していると思います。

太子堂:日本企業の今後の成長に必要なガバナンスについて、メッセージを頂戴できればと思います。

松﨑:これは英語でいうと、Strategicなoversight board ですね。何か悪いところを見つける役割の主体は監査であって、取締役会というのは、管理のための監督に重点を置くのでなく、この企業の将来のために、そもそもどんな戦略でいくべきか、その戦略が結果を出すためにはどうあるべきか、経営目標達成のためには何が必要なのか、そういうことに重点を置いた監督をすべきだと思います。 太子堂:監督の意味合いとして、何に重点を置くべきかについては、必ずしも理解が確立されていないように思います。

松﨑:私も指名委員会等設置会社の社外取締役を務めていますが、そこではまさに監督という役割が問われています。しかし、社外取締役を務めている人がその役割をきちんと理解しているかというと、必ずしもそうではないのです。

太子堂:それは例えばどういうところにあらわれるのですか。

松﨑:やっぱり入り込み過ぎることが多い。「それはあなたの役割じゃない」と、私のほうでいったりもします。

太子堂:社外取締役が執行から一歩距離を置けず、入り込み過ぎてしまうというのは、少なからず起きている現象ですね。私も取締役会の実効性評価のお手伝いをすることがありますが、社外取締役が個別の業務執行の細かいところまで管理しようとして、経営者のリスクテイクを後押しするのではなく、足を引っ張っているといった問題が浮き彫りになることがあります。

松﨑氏

監督と執行はラグビーのコーチとキャプテン

松﨑:ついこの前も、ある会社の役員研修会で講演してくれということで、「監督とは何か」について話してきました。そのときに分かりやすい例えでいったのは、ラグビーのワールドカップを見たでしょと。あのときにヘッドコーチはグラウンドにいなくて、観客席の高いところから戦況を見ていましたね。あれがまさにoversightなのです。

大事なことは、ラグビーのヘッドコーチというのは、チームキャプテンや選手を選定する権限を持ち、試合中も戦況を見ながら指示を出しますが、その指示に従うかどうかはチームキャプテンが判断して試合を進めます。監督側と、CEOをはじめとする選手は、まさにこの関係です。 太子堂:とてもわかりやすい例ですね。そういったメッセージを発信されるのは、とても意義があることだと思います。「監督」と「干渉」とは違うのだということ、意識的に干渉しすぎず、境界線を引く必要があるということは、もっと強く認識されて良い気がします。

松﨑:一緒になってゲームをしてはいけないのです。皆さんもW杯ラグビーの試合はテレビで何度も見たでしょうから、あれをイメージすればいいと思います。このように、「監督とは何か」を分かりやすく伝えることが大事だと思います。

太子堂:ラグビーのヘッドコーチは上から試合を見ているのであって、ゲームに口を出し過ぎないというのは、常にそのように戒めないと、経営者は自然と口を出しそうになる。ご自身もそうやって常に意識されているということですか。

松﨑:経営が好きだから。一緒に入り込みたい。

太子堂:それは監督ではないから、意識的に距離を置くという、不断の意識が必要だということですね。

松﨑:やはり大局的というか、問題を抽象化して、本質的なことをいう。個々の点についてあまり具体的に「ああしろ」「そうじゃない」というのは違うと思います。

太子堂:それでは、自分が経営していることになってしまう。

松﨑:私は、優れた社外取締役は、「究極のゼネラリスト」だと思います。その会社の固有の問題であっても、それを自らの経験を通じて抽象化する。「これは経営のこういう問題だ」というように抽象化できる。その観点で意見をいうのが本来の姿だと思いますね。その会社が今、直面している具体的なことにしか意見をいえないとなると、その会社の事業をよく知らなかったら、何もいえなくなってしまいます。

太子堂:ありがとうございます。大変勉強になります。

松﨑:あと一点付け加えるとすると、当社のガバナンスの今後の課題です。

太子堂:それもお聞きしたいです。

松﨑:これはとくに事務局に言っているのですが、当社はガバナンスで「先進的」といわれてきましたが、今となっては必ずしも先進的ではないかもしれません。先進的といわれてきたから、これからも先進的であろうとするわけですが、それは本意ではない。

太子堂氏と松﨑氏

問題を抽象化して本質を語れ

太子堂:なるほど。会社の考えや思想を体現するのがガバナンスであって、形ではないということですね。

松﨑:形の上ではもはやビハインドになってしまっているように見えても、それは仕方がない。やはり、ガバナンスシステム全体を機能させることが大事だと思っています。

太子堂:本日の松﨑さんのお話をお聞きして、世の中の先進事例を形式面から取り入れるという発想ではなく、社長自身がチェックされるガバナンス体制が重要であると、腹落ちして本気で推進しているからこそ、コーポレートガバナンスに関する発信も、血の通った会社の思想として感じられるのだな、と思いました。形式から実質への流れの中、取締役会の監督機能を底上げするためのヒントが、沢山あったように思います。私も大いに勉強させて頂きました。本日はお忙しい中、本当にありがとうございました。

松﨑正年氏

松﨑正年 コニカミノルタ株式会社 取締役会議長
1976年小西六写真工業株式会社 入社。コニカとミノルタの経営統合後、情報機器事業(プリンター、デジタル複合機)の制御開発本部長を経て技術戦略担当役員を歴任後、2009年コニカミノルタホールディングス株式会社 代表執行役社長就任。2014年4月より現職。社外取締役多数歴任。コーポレートガバナンスに関する講演多数。日本取締役協会 副会長。

太子堂厚子氏

太子堂厚子 森・濱田松本法律事務所 パートナー 弁護士
1999年東京大学法学部卒業、2001年弁護士登録、森綜合法律事務所(現・森・濱田松本法律事務所)入所。会社法、コーポレートガバナンス、紛争解決等専門。主な著作として、『Q&監査等委員会設置会社の実務』(株式会社商事法務、2016)ほか多数。カンダホールディングス株式会社社外監査役、株式会社ジュピターテレコム社外監査役、ピジョン株式会社社外監査役。

撮影:淺野豊親